廊下で前方から一人の女の子が早足で歩いてくる。
名前はパーバティ・パチル。
学年で一番可愛いと評判のインド系の女の子だ。
そしてグリフィンドール生。



彼女は私の顔を見るなり、顔を引きつらせてゆっくりと足を止めた。
私もつられて足を止めてしまう。
ふと、今自分が一人であることを気にとめた。
マルフォイが一緒にいない、クラッブもゴイルも。
私の意地悪を見ていてくれるザビニやパンジーをはじめとするスリザリン生が誰もいない、それどころか私の悪事を見て他人に言いふらす他の寮の生徒もいないのだ。
強張った表情のままの彼女を見たまま動けなくなってしまった。



見ていてくれる人がいないのに意地悪をする意味はあるのだろうか。
彼の耳に入らないのに、彼が喜んでくれないのに、どうして意地悪をする必要があるのか。



動かない私の様子をうかがっていたパチルは怪訝そうな顔をしつつも、恐る恐る一歩ずつ前進し始めた。
ゆっくりと進み、私の真横まで来て駆け足で去っていく。
それでも私は動かなかった。
必要性が見いだせなかったし、なにより動機もなく意欲もない。



ただふと、私が互いに一人でいたグリフィンドール生に何も手を出さなかったどころか、嫌味のひとつも言わなかったことが、万が一彼に伝わってしまったらどうしようかという考えが頭を過った。
その考えが脳裏を掠めてからは、もう勝手に体が動いていた。
回れ右をして走り去ろうとする彼女の背中を追う。
やっとのことで追いつき、彼女のローブを踏み付けた。
静かな廊下にパチルの悲鳴、そしてビリッと嫌な音が響き、彼女は後ろに倒れた。
彼女が手に持っていたものが散らばる。



私はそれを見下ろしていたが、特に何も面白くない。
ただ、安心感だけが残って、私は荒い息のまま黙ってその場を去った。







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「ひどいわ!」



最初パーバティの姿を見た時は真っ青になっていたハーマイオニーだが、彼女がつかえつかえに事情を話すうちに頬は赤みを帯びてきた。
寮に戻ってきたパーバティのローブは破れていて、彼女の頬には微かに涙の跡が残っていた。
プリントは数枚くしゃくしゃになっていたし、僕らもやるせない気持ちになった。



「こんなのあんまりよ!私、彼女に直接文句を言わないと気が済まないわ!」

「その前にパーバティのローブを…ええっと、どんな呪文だったっけ」

「もう、レパロよ!」



おろおろしているロンを押しのけてハーマイオニーがパーバティのローブに呪文をかけた。
破れた部分がきれいに直った。
ロンが小さな声でぼそぼそとレパロレパロと復唱している。
早足に寮を後にするハーマイオニーを追って僕とロンも寮を出た。



「ミョウジ!」



ハーマイオニーは勘がいいのか、すぐにスリザリンの連中を見つけた。
中庭に近い廊下の柱のもとで談笑していた彼らは、顔に笑顔を貼りつけたままでこちらを見た。
その中にミョウジはいて、やはり他と同じように嫌らしく口角をあげていた。
つかつかとハーマイオニーが彼女に向って歩いていくが、その手前でゴイルが立ちはだかった。
これで彼女に触れるまでの距離まで行くことはできないわけだが、それでもハーマイオニーは声をあげた。



「パーバティになんてことをしてくれたの!」

「なんだグレンジャー、マグルは吠えることしか知らないのか」



マルフォイが口を挟んだ。
彼の周りがどっと笑う。
ハーマイオニーがこちらを振り返って、何か目で言っている。
僕らもこっちに来いと言われているのか。
少し離れていた見ていた自分らのいる位置を確認して理解した。



「へえ、ミョウジは今度はどんなことをしたんだ?」

「次にあんな酷いことをしたら、こっちだって黙っちゃいないわ!」

「もう黙ってないじゃないか」



またどっと笑うスリザリンの連中の輪の中で、ミョウジは嬉しそうに笑っている。
僕はそれを見て不思議に思った。
ハーマイオニーを見下すようにでも、馬鹿にするようにでもない。
ただ純粋に嬉しそうに笑っているように見えたのだ。



その後、ずっとスリザリンとハーマイオニーが向かいあう中で僕はどうしてもその笑顔が気になって仕方がなかった。
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