全てはあの汽車の中で始まっていたんだろうと思う。
不安と期待で胸がいっぱいになりながら乗ったあの汽車で。
パパとママと別れて乗り込んだ汽車の中は子どもでいっぱいだった。
わいわいと話している子どもたちの中に知り合いはいなく、私は心細い気持ちで、荷物を持ったまま棒立ちになっていた。
はっと気付いた時にはそれぞれが席につき、通路にいる子どもの数はまばらになっていた。
慌てて席を探すがなかなか空席が見つからない。
早く動くべきだったと後悔するが今さら遅かった。
泣きそうになりながらキョロキョロしていると、ふと、空いている席が見えた。
よかった。
無意識に口からそんな言葉が漏れて、私はそのコンパートメントのドアを開いた。
しかし、そこで私は黙ってしまった。
中には大柄な男の子が二人と、足を組んでいる綺麗な髪の男の子がいた。
三人とも私の顔を怪訝そうに見ている。
一番奥にいる、その綺麗な髪の男の子から私は目が離せなかった。
綺麗な薄いブルーのような、グレーのような、見たことのない色の目をした少年だった。
「僕らに何の用だ?」
その少年によって沈黙は破られた。
威圧するようなトーンの声に私の肩が揺れる。
私は我に返って、慌てて口を開いた。
「あの、もう席が空いてなくて、もしよかったらここに座らせてもらえませんか…?」
語尾の方が小さくなってしまった。
彼らの視線があまりにも鋭かったからだ。
三人の少年はお互いの顔を見合わせていたが、すぐにブロンドの彼が私の方を向いて言った。
「君は純血か?」
「え?」
「純血かって聞いてるんだ」
「えっと、はい…先祖にマグルはいないと思います…」
「いないと思います、だ…?まあいい、座れ」
彼の言葉にほっと息をついて、私は大柄な男の子(二人いるうちの一人)の隣に座った。
綺麗な目をした少年は足を組みなおして言った。
「僕はドラコ・マルフォイ。名家であるマルフォイ家の一人息子だ」
マルフォイくんはそう私に自己紹介をしてくれた。
彼は家柄がいいらしい。
言われて何もピンと来なかったけど…。
彼がもう二人に目配せすると、言葉なしに要求を察したらしく、彼らも自己紹介を始めた。
「僕はビンセント・クラッブ」
「グレゴリー・ゴイルだ」
「クラッブとゴイルで構わない」
マルフォイくんが最後にそう付け加えた。
なんだか、三人の間に上下関係を感じる。
クラッブとゴイルは格下みたいだ。
「君は?」
「私はナマエ・ミョウジ。よろしくね」
そう言って私が微笑むと、三人も笑ってくれた。
先ほどの攻撃的な雰囲気はなく、私は胸を撫で下ろした。
それでわたしはやっぱり、マルフォイくんから目が離せなかった。
綺麗な瞳に、綺麗な髪。
私の心臓は今までに経験したことのないほど、とくとくと鼓動していた。
「ミョウジ、君はどこの寮に入りたいんだい?」
「寮?」
「そうさ。僕はスリザリンに決まってる。スリザリン以外なんて考えられないね。なあ、お前たち」
彼の問いにクラッブとゴイルはうんうんと頷いた。
スリザリン、その寮がどんな寮だって知っている。
自分の両親の口からほとんど出たことのなかった言葉で、自分の頭にも浮かんだことはなかった。
でも私は気づいたら、大きな声をあげていた。
「わ、私も、スリザリンがいいと思ってたの!」
私がいきなり大声を出したからだろう。
三人とも一瞬驚いて表情を堅くした。
急に恥ずかしくなって前のめりになっていた姿勢を戻し、俯き加減になってしまっていると、マルフォイくんの声が飛んできた。
顔をあげると、彼はにやりと笑った。
「わかってるじゃあないか。じゃあ、僕らみんな同じ寮だ」
「あ、よろしくね。マルフォイくん、クラッブ、ゴイル」
「僕もマルフォイでいい」
マルフォイはそう言ってくれた。
私は嬉しくなってしまった。
さっき会ったばかりの子だけれど、彼の行動にいちいちどきどきしてしまう。
長いこと汽車に揺られ、やっとホグワーツに着いた。
これから、私の新しい生活が始まるんだ…。
荷物を出して、ホームでぼんやりしていると、三人の姿がないことに気がついた。
探すが、たくさんの子供たちに紛れてわからない。
はぐれてしまったようだ。
「はあ…」
がっかりして溜め息をつくと、べちゃりと靴に何かがくっついた。
驚いて見下ろすと、そこにはカエルがいた。
両手で拾い上げる。
野生のカエルかな。
首をかしげていると、目を丸くした少年が私に向かって走ってきた。
いろんな人にぶつかりながら。
「それ、僕のカエル、トレバー…!」
「君の?」
「そう、ペットのカエルなんだ。いつも僕から逃げて、今も探してたんだ。見つけてくれてありがとう」
彼はすこしぽっちゃりしていて、見るからにドジそうだったが、笑顔が優しそうで人柄がいいのは見て取れた。
私は笑顔でカエルを差し出す。
「はい、もう逃げないようにね」
「ありがとう。あ、僕ネビル・ロングボトム」
「私はナマエ・ミョウジ」
「また会ったらよろしくね」
「うん、お話しようね」
二人はそんな会話を交わして別れた。
案外友達というものは簡単にできるものなのかもしれない。
私は笑顔になりながら、マルフォイたちに追いつこうと歩みを進めた。
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