あの日からずっとドラコの機嫌が悪い。
いつも私に取らせてくれるパンも、彼は自分で取ると言って私を押しのけた。
私が、彼の腕に絡めた腕も、振り払われてしまった。
「あんたたち、さっきからお菓子ばっかり食べて、他に何かする脳がないの!?」
後ろからついてくるクラッブとゴイルに叫べば、彼らは顔を見合わせた。
本当に、馬鹿みたい。
ドラコを上目づかいに見てみたけれど、視線があうことはなかった。
ポッターたちに何かされたのかしら。
授業の合間にトイレに入ると、そこにはグレンジャーがいた。
ドラコが大嫌いなマグルの女だ。
「あら、穢れた血のグレンジャーじゃない」
「パーキンソン…」
グレンジャーが私を睨む。
私はこの女とは入学当初からそりが合わない。
まあ、スリザリンとグリフィンドールだから合うわけがないんだけど。
「ミョウジがそっちに行ってるようね。まあ、出来損ない同士でちょうどいいじゃない。せいぜい低能たちで群がってるといいわ」
「あなた…ナマエは友達でしょう?」
その言葉に私は吐き気がした。
私とミョウジが友達?
冗談じゃない。
それに、あの出来損ないとこのマグルは互いに名前で呼び合う仲になったのか。
「はっ、馬鹿言わないで。彼女とは何の関係もないわ」
「そうやって平気で友達を見捨てるのね!その卑劣な神経が理解できないわ」
グレンジャーの顔には軽蔑の色が浮かんでいた。
私は思わず笑ってしまった。
あいつは友達じゃないし、見捨ててもいない。
私の神経が卑劣なわけもない。
「人のことを言う前に自分のことを気にした方がいいんじゃない?ローブの裾を引きずってるわよ、不潔だわ」
「あなたは発言の全てが汚らしいのよ」
「なんですって!ブサイク!」
「何よ、このパグ顔!」
トイレの中でいがみ合いを始めた私たちに他の女子生徒たちが困った顔をしながら通り過ぎる。
私たちはしばらく睨みあったが、私が先に息を吐いた。
「あなたとこんなことしてる暇はないの。ドラコが待ってるわ」
「私だって、ロンとハリーの所に…あと、一つ言わせて。マルフォイはあなたのことなんか待ってないわ」
私は歯を見せて威嚇した。
何この女、本当にムカツク!
- - - - - - - -
「おい」
違う授業を受けていたためノットはおらず、グリフィンドールのみんなと話したいなとか考えながら廊下を歩いていたら、久しぶりに聞く声が耳に入った。
振りかえらなくても誰だかわかるから、私は振りかえらなかった。
何を私に言う事があるのだろうか。
「おい、聞いてるのか」
「・・・」
彼は私に追いついて横に並びながら言った。
久しぶりに近くで見るマルフォイは依然と何も変わらなかった。
いや、少し背が伸びた気もしなくはない。
気のせいか。
この期間で伸びるわけないか。
「お前、最近ポッターたちとつるんでいるらしいじゃないか」
「・・・」
「僕に見捨てられて行き場を失ったんだろう。あいつらに近づくなんて君は本当にスリザリン失格だな」
私は無視し続けた。
思うのだが、マルフォイから離れてからの日々は、周りの人間に嫌味を言うということをしなくて良くなって、すごく楽になった。
他の寮の子も話しかけてくれるようになって嬉しいくらいだ。
しつこく彼は喋り続ける。
「優しいノットが構ってくれてさぞ嬉しいだろう。いつも楽しそうにして、彼に惚れたか?」
嫌味っぽく笑って、嫌味っぽく言う。
マルフォイのことは好きだ。
これは過去形ではない。
でも、こうしている彼は馬鹿馬鹿しくてしょうがない。
「マルフォイくん」
私は立ち止まって彼を見上げた。
彼もつられて立ち止まって私を見下ろす。
あの綺麗な目が再び私を射抜いた。
「私なんかといたら気高い君が汚れるよ」
それだけ言ってまた歩き出した。
もう彼は追ってこなかった。
私はあの綺麗な目を思いだしながら、涙が出そうなのをこらえた。
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