「ナマエ」
背後から声をかけられた。
見ればそこにはハーマイオニー、ハリーに寝ぐせだらけのロンが立っていた。
私は笑顔になった。
「おはよう」
「うん、おはよう」
「昨日はよく眠れた?」
「とっても」
昨夜、私たちはたくさん話してすっかり打ち解けた。
友達と話してこんなに心の底から楽しいと感じたのは久しぶりだった。
スリザリンでは話の内容はだいたい悪口とか、あまり意味のないことばかりだから。
「君も、こっちのテーブルで食べられればいいのにね」
「ううん、それもいいけど、私ちゃんと一緒に食べる人いるからいいよ」
ハリーが気を使ってくれたけど、私は首を横に振った。
一緒に食べてくれる人、というのは一応ノットのことだったが、彼が私と食べる保障なんてなかった。
それでもよかった。
彼らの前では少しでもかっこつけたかった。
大広間の入り口まで来た。
「じゃあ、また」
「うん、見かけたら声かけてよ」
「うん」
本当に彼らは気がいい。
つい最近まで散々意地悪していたのに、こんなに私によくしてくれる。
スリザリンのテーブルへ向かう途中でディゴリーと目が合って、彼は微笑んでくれた。
私も少し微笑み返す。
彼も、いい人なんだな。
そういう人たちがいるグリフィンドールやハッフルパフの素質があると言われたことを、今さらながら嬉しく思った。
「おはよう」
私が席についてしばらくもしないうちにノットがやってきた。
静かに私の隣に座る。
彼に挨拶を返すと、ちらりとこちらを見ただけで新聞を読みだした。
手元のシリアルに視線を移す。
ノットとの食事はとても静かだった。
二人の間にあるのは食器がぶつかりあう音と、彼が新聞をめくる音だけ。
だんだんその沈黙の中でマルフォイのことを考え始めてしまった。
きっと私の左の方で、クラッブやゴイルやパンジーと食べているんだろう。
私なんか最初からいなかったのように、楽しく。
シリアルをすくって口に突っ込んだ。
知ったものか。
私だって、最初からマルフォイとなんか関わっていなかったかのように過ごしてやるのだから。
そう考えているとノットの手が私に向けて伸びてきた。
何かと思っていたら、その手は私の脇に滑りこむ。
「ぎゃ、やめ、あははは、はは!」
私は大きな声を出してしまった。
脇をくすぐられて笑ってしまったのだ。
周りの生徒が私のことを凝視してきて私は俯いた。
少しノットを睨む。
「な、何するの!みんなに見られたじゃん」
「難しい顔してる君が悪い」
真顔でノットが言うので、私は少し笑ってしまった。
彼も薄く笑った。
笑った顔なんか初めて見た気がする。
「そうやって笑ってた方がいい」
「え?」
「君が辛い顔してるのが、一番あいつらの思うつぼだから」
なるほど、と思った。
やっぱりノットは頭がいい。
成績がどうこうじゃなくて、こう、頭の回転の速さというのだろうか。
私はわざとらしくも満面の笑みを彼に向けてやれば、彼はさきよりもはっきりと笑った。
「そういえば君、グレンジャーたちといた?」
「うん、いたけど…」
「僕は君といても、マグルといるつもりはないからな」
ノットはそう言ってスープをすすった。
私は頷いた。
彼もマルフォイ同様、純血主義者だ。
「ロンは純血だよ」
「知ってる」
「彼のことは、嫌い?」
「別に」
そっか、と答えて彼と同じようにスープを飲もうと思ったら、背中に衝撃があってスープをこぼしそうになった。
驚いて振り返ると、そこには大広間を後にしようとしているパンジーとマルフォイ、クラッブとゴイルがいた。
パンジーだけがこちらを振りかえり、嫌味っぽく笑っていた。
ぶつかったのは彼女か。
「気にするな」
「してないよ」
「それならいい」
ノットはもう新聞を読んでいなかった。
私はそれを取って中を見てみると、彼は見ても面白くないだろう、と言った。
ごもっともです。
「ところで」
「うん?」
「ダンスパーティで踊る相手、決まったか」
「ううん、決まってないけど」
「じゃあ僕と踊らないか」
ノットは私の手から新聞を取りながら言った。
視線はずっと手元にあったけど。
断る理由なんて、どこにもない。
「うん、喜んで」
「ありがとう」
彼はあの曖昧な笑みを浮かべてまたスープをすすった。
また私も真似してスープをすする。
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