まず部屋に戻って気づいたことは、私の私物が見当たらないことだった。
黙って自分のベッドへ向かえば、全てがそこにあった。
ベッドの上に山積みにされていて嫌だったけど、捨てられるよりましだった。
談話室にはみんながマルフォイを取り囲むように集まっていて、私を睨んでいた。
私は視線を地面に落とした。



「ミョウジ、よく平気な顔でスリザリン寮に戻ってこれたな」



マルフォイが声を低くして言う。
私は顔をあげられない。
みんなの視線が私に集中した。



「あの間抜けに情けでもかけたつもりか?もっとスリザリン生としての自覚を持ったらどうだ、君は寮の恥だ」



その通りだと思った。
情けをかけたのかどうかはわからない、でもスリザリ生としてありまじき行為だったのはわかる。
だから何も言い返せなかった。
何か反論があっても相手がマルフォイだから、何も言い返せないことには変わりないのだけれど。



「顔を見るだけで嫌な気分になるんだ…もう僕に近づかないでくれ。いや、近づくな」



今、彼はどんな顔をしているのだろう。
怖くて仕方が無くて、顔をあげることは出来るわけがなかった。
私はぐっと唇を噛みしめた。
立ち上がり、談話室を出て行く音がした。
ようやくそこで私を顔をあげた。
そこにはマルフォイ、クラッブ、ゴイルを除くみんなが私を睨んでいた。
パンジーが一歩前に出た。



「あなた、ドラコとパーティに行くつもりだったらしいじゃない。それで平気で私に黙ってたのね。この泥棒ネコ!」



彼女はあのキーキー声で言った。
泥棒って、マルフォイは別にパンジーのものではなかった。
言いたいことはたくさんあったけど、私は押し黙ったままだった。



「ドラコは私と踊ると言ってくれたわ。あなたはせいぜい、一人ぼっちでパーティに出たらいいわ」



パンジーは勝ち誇ったように笑って、ミリセントとダフネを引き連れて出て行った。
他の生徒も、最後に私に冷たい視線を向けながら、次々と談話室を後にする。
私は静かに後ずさった。
ここにいるのはあまりに苦だった。







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ぴたーん

ぴたーん



廊下の奥から水の音がする。
私は夜の廊下をゆっくりゆっくり歩いていた。
とても部屋に戻る気にはなれなかったから、寮を抜け出してきたのだ。
あの部屋にはミリセント、ダフネ、それにパンジーがいる。



フィルチはどこにいるのだろう。
監督生も。
こうやって堂々と寮を抜け出している時に限って、誰も見回っていないものだ。
ここはレイブンクロー寮。
私はある人に会いに来ていた。



「マートル」



トイレに入って呼びかけた。
足元はびしゃびしゃに濡れていてローブの裾が濡れていたが、気にしなかった。
きっとマルフォイが見たら汚いといって新しいローブを買わせたかな。
そんなことを考える自分に嘲笑した。



「あら、スリザリンのナマエ・ミョウジじゃない。あなたの噂はたーくさん聞いているわ」



マートルが現れた。嘆きのマートル。
マルフォイは彼女がマグルだから嫌っている(もう彼女は死んでいるけど)。
気味の悪い笑い方をして私の顔を覗き込んだ。
噂って、どうせロクな噂じゃない。



「こんな時間にどうしたの?見つかったら、減点されちゃうわよ」

「私、君に話があって来たの」



マートルの弾むような声とは対照的に、わたしの声はなんだか震えていた。
ぴたーん。ぴたーん。
水の音は不思議と心地よかった。



「マルフォイにね…嫌われちゃったの」



静かに言った。
水音にかき消されてしまうかと思うほど小さく。
水たまりに自分の姿がゆらゆらと映されていた。



「あなた、他人の不幸は蜜の味って人らしいね。笑ってよ、私のこと。今最高に不幸なの」



私は彼女を見た。
彼女はただじっと黙ったまま私を見ていた。
しばらく二人は無言のまま見つめ合っていた。



「でもー…笑ってほしいと思う人を笑っても楽しくないわ」



マートルがにこりと笑った。
なんだ、この子。
あまりに期待はずれな答えに私は眉をひそめた。
そうか、笑われたくない人を笑うから楽しいのか。
私はうなだれてトイレを後にした。



しばらく歩いていて立ち止まった。
あることに気がついたからだ。
それは、紛れもなく、迷子になったということだった。
ぼーっとしたまま歩いていたせいで、周りを見てもここがどこだかわからない。
困り果てて、立ち尽くした。



「君…」



背後から声がして振り返る。
そこに立っている青年は訝しげに私を見ていた。
ハッフルパフのセドリック・ディゴリーだ。



「スリザリンのミョウジじゃないか…こんな時間にこんな所で何をしてるんだ、しかも一人で…」

「ここは、どこ」

「ハッフルパフ寮だよ」



なんてことだ。
ハッフルパフの寮まで来てしまうとは、私もどうかしている。
自嘲して、彼の顔を見た。



「迷子になってしまって、スリザリン寮にはどうやったら帰れる?」

「ここをまっすぐ行って右に曲がれば、君の知ってる場所に出るはずだよ」

「ありがとう」

「それより、泣いてるみたいだけど、大丈夫?」

「ええ…じゃあ、おやすみなさい。ミスター・ディゴリー」



私は彼に頭を下げて歩きだした。
セドリック・ディゴリーは何か珍しいものを見るかのように、でも心配そうに私を見ていた。



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