ついに決闘クラブのある日がやってきた。
朝からマルフォイは上機嫌で、それに感化されるようにクラッブとゴイルも上機嫌だった。
私はあれからいろいろ考えたけど、理由はなんであれマルフォイに誘われたのだから、素直に喜ぼうと思った。
そして、パンジーに何を言われようと気にしないようにしようと決めた。
これはフェアにいくべきなのだから。
「ビンセント・クラッブ対ハリー・ポッター」
スネイプ先生が相変わらずの冷やかな口調で名前を読み上げ、二人が壇上に上がった。
みなその姿を見上げて好き勝手に意見や感想を口にしている。
マルフォイはポッターの相手が自分じゃないことに少し不満げだったが、すぐにクラッブを応援しだした。
「クラッブ!雑魚は早く片付けてしまえ!」
「そうよクラッブ!」
その隣でパンジーも叫んでいる。
私も二人を見上げた。
正直、クラッブはポッターに勝てないだろう、と思った。
いくらクラッブの味方とはいえ、力の差は歴然としているように思ったから。
私の予想は当たって、結局クラッブが負けた。
宙に放り出され、床に叩きつけられて呻き声をあげた。
慌てて私はクラッブに駆けよる。
顔を歪めながら右腕をおさえている彼はそうとう苦しんでいるようだった。
「先生、ミスター・クラッブを医務室へ…」
「その必要はない。ナマエ・ミョウジ対ネビル・ロングボトム」
目を見開いた。
それはスネイプ先生がクラッブを放置しろと言ったからではなく、自分の名前が呼ばれたからでもなかった。
私の対戦相手が、ネビル・ロングボトムだったからだ。
「ネビル…」
「大丈夫かい?」
「しっかり、あなたなら出来るわ」
グリフィンドール側では、ロングボトムに向けてそんな励ましの声がかかっていた。
自分で言うのも何だが、私はそうとうグリフィンドールに嫌われているらしいから(意地悪してるから当たり前がけれど)。
ロングボトムは顔を真っ青にしながら、よろよろと弱々しい足取りで壇上に上がった。
視線はあちこちを彷徨い、こちらを見る気配はない。
「ミョウジの相手にはお粗末だな」
「ナマエ、さっさと片付けちゃいなさい」
「そうさ、いけナマエ!」
マルフォイ、パンジー、ザビニに応援されて壇上にあがった。
目の前にはおどおどとしているロングボトム。
誰にとっても、彼はお粗末な相手だ。
私は大きく深呼吸した。
「リクタスセンプラ(宙を舞え)!」
杖を振り、叫べばロングボトムは呪文通り吹っ飛んだ。
スリザリンから笑い声があがった。
逆にグリフィンドールからはざわざわと心配の声が聞こえる。
「オ、オパグ」
「エクスペリアームス(武器よ去れ)!」
ロングボトムが慌てて上体を起こして、対抗しようとして唱えた呪文を遮るように次の呪文を発した。
彼の手から杖が飛ぶ。
杖だけでなく、ロングボトムの身体も宙を舞った。
嫌な音を立てて地面に叩きつけられる。
私は無我夢中になって杖を振るう。
「エレクト(立て)!」
ロングボトムを立たせた。
自分でも驚くほど次々に呪文が発せられる。
ルール違反を犯しているのに、スネイプ先生は何も言わずに、静かに私たちのデュエルを見ている。
その口の端にわずかな笑みが見て取れた。
大丈夫、これでスリザリンから点が引かれることも、私が罰せられることもない。
これで終わりにしよう。
そう思い、もう一度杖を振ろうと思った時、私の脳裏にあの日のことが浮かんだ。
それ、僕のカエル、トレバー…!
見つけてくれてありがとう
あ、僕ネビル・ロングボトム
また会ったらよろしくね
急に、あの屈託のない笑顔が浮かんだ。
どうしてだろう、今まで忘れてたのに。
そして今、目の前には半分失神しかけたロングボトムが虚ろな目でこちらを見ている。
私はいつかの彼の笑顔を振り払おうと、もう一度、強く杖を握りなおした。
「ミョウジ、何をしているんだ早くとどめを刺せ!」
耳にしっかりとマルフォイの声が届いていた。
誰か、女の子の悲鳴が聞こえる。
教室は沈黙に包まれた。
気づけば杖を握った私の腕はだらんとさげられていた。
「…ミョウジ」
「もういいです…」
スネイプ先生の言葉に小さく言った。
静まりかえっていた教室が急にざわざわと騒がしくなる。
私は顔を上げる事ができなかった。
失神しかけたロングボトムのことも、何か叫んでいるパンジーのことも、
そしてきっと失望しているであろうマルフォイのことも見る事ができなかった。
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