「こらナナシ」
「ん?なーに平門?」



今忙しいの!と返すと、呆れた声でただ旅行ガイドを見ているだけだろう、と言われた。だって今度行く街は行ったことない街だし!なによりもそこは観光で有名なリゾート地だし!もう調査なんてぶっちゃけどうでもいい←



「それよりも爪を噛むんじゃない」
「あ、ごめん」
「まだ治ってないのかその癖は」
「あは、」
「せっかくの綺麗な爪が台無しだぞ?」



わたしの手を取ってそれまでわたしが口元に持って行っていた爪に口づけをする平門。その行為はあまりにも自然で自分の顔が一気に赤くなるのが分かった。



「噛むくらいなら切れ」
「ん、そうだね、今度やっとく」
「今やればいいだろう」



なぜそうも面倒がるんだ、と呆れ顔をする平門。



「おれが整えてやる」
「え、いいの」
「ああ、おれが不快だからな」
「不快って…」



しばらくぱちんぱちん、という爪きりの音だけが部屋に響いた。



「平門の爪、ちょーきれー」
「これが普通だ」
「えっ、うそ」
「もっと身なりに気を使え」
「今のでもそんなにだめだとは思わないんだけどな…」
「それにだ、」



平門が手を止めてこちらを見る。



「行為の最中に怪我をしたくない」
「!!」
「ナナシは快楽に呑まれたら手加減というものをしないからな」
「そ、そんなことっ」
「顔が赤いぞ?」
「赤くないっ」
「見せてやろうか?」
「?」
「お前がおれにつけた傷を」
「遠慮しときます…!」