「ぬう…」
「………」
「ぬうううううううん」
「…うるさいぞ、静かにしろ」
「うううううう」
「……」



燭ちゃんの部屋にあるソファで丸くなりながらうめき声を上げ続ける私。なぜかって?それはあれですよ、女の子の日。毎度痛みはあったけど、こんなにひどいのは久しぶりだ。私がこんな状況になっている理由を知りながらも静かにしろと言い放つ燭ちゃん。労わるという言葉を知らないのだろうか、彼は。



「燭ちゃんにこの痛みは分からないよ…」
「当たり前だろう」
「うあーきたあああ」
「何がだ」
「痛みがあああ」
「まったく…」



こんな私を見かねたのだろうか、近くにあった水の入ったペットボトルを持ってきてくれた。



「薬は飲んだのか?」
「…飲んでない」
「なぜだ」
「飲みすぎると効果がなくなってきちゃうじゃんー…」
「それでも、いつまでもこんな姿のお前を見ている私の身にもなれ」
「うう…」
「薬は持っているか」
「あ、………燭ちゃん持ってる?」
「…普通の痛み止めくらいならあるが、」
「じゃ、それでいい」



私はそれを一錠受け取り、ペットボトルのキャップを回す。そんな様子を燭ちゃんは側で腕を組みながら立って見ていた。



「……なに?」
「なんだ」
「それこっちのセリフなんですが」
「ナナシがしっかり飲むか見ているだけだ」
「なにそれ」
「気にするな…何なら飲ませてやるが?」
「へ?」



私が聞き返したときにはすでに燭ちゃんは私のすぐ近くに移動していた。彼はソファに片足を乗り上げて、ペットボトルを持っている方の手首を軽く掴み、私の開いた唇に口づけを落とす。その時に、べろり、と口内を一舐めされたが、舌を絡めるわけでもなくすぐに唇を離した。



「…なんでキス?」
「知らん」
「ここは口移しかと思った」
「これだけでは不満か?」



むっとした様子で燭ちゃんが言う。だって飲ませてほしいのか、なんて言われたらそうなるかと思うじゃない。キスが嫌なわけじゃないんだけどさ!



「女がそんなことを言うんじゃない」
「燭ちゃんと私の仲じゃんー」
「何でもそう言えば済むと思うな」
「はは、バレた?」
「…調子、良さそうだな」
「燭ちゃんと話してたら気が紛れた」
「そうか」
「やっぱり薬はいいから一緒に何か話してよー」
「しかし一応薬は飲んでおけ」
「えー、いいよー」
「お前の望み通り飲ませてやるんだ、大人しく従え」



そう言って、薬を取り出し、水を口に含む燭ちゃん。水を飲んでいる姿がすごく様になっていて、一瞬で目が離せなくなる。ぼーっと彼を見ていたら燭ちゃんが再び顔を寄せてきて、私の頬を両手で包み口付ける。その瞬間、口内に水分が流れ込んでくる。私が薬と水を飲み込んだ後もしばらくその唇が離れることはなかった。さっきのキスとは違って口内全てを味わうかのようにねっとりと舐め上げられる。あまりに長いもんだから首が痛くなってきた。でも両頬に手が添えられているため、なかなか身動きがとれない。私は無意識に燭ちゃんの身に着けている白衣の袖を握りしめていた。



「ふっ、…燭ちゃん、くるしっ…」
「早くないか?」
「そ、なこと、ない…」



私の抗議も虚しくそれからしばらくしてようやく唇を離してくれた燭ちゃん。私はこんなにも息を切らしてるのに、当の本人は平気らしい。濡れた唇を手の甲で拭う姿は例えようのないくらい妖艶だった。



「……今日はここまでだな」
「え?あ、そっか」
「続きができないとは非常に残念だが仕方がない」
「ごめんね?」
「なぜナナシが謝る?」
「なんとなく?」
「1週間我慢すればいいだけの話だ」
「うん、毎回我慢してるもんねえ」
「…馬鹿にしてるのか」
「なんでそーなる」