「あーつーいーよーーーーー」
「イライラすんなってナナシ」



今日は朔さんと二人で任務だった。任務と言ってもそんなに大げさなものではないのだけれど。……それにしてもまだ夏本番には程遠い時期だというのにこの暑さは何なのだろうか。太陽が容赦なく照り付けて私の体力を奪っていく。しかし目的地まではまだ少し距離があるらしい。あまりに熱いもんだから私たちは上着を脱ぎ、シャツを肘のあたりまで捲っていた。



「朔さん、おんぶ」
「そんなんしたら余計暑くなるだろー」
「でも歩くの疲れたし喉渇いてきた」
「おれも」
「どっかで休憩しようよー…」
「仕方ないな。よし、日陰を探すぞ」



辺りを見回せば進行方向にちょうどいいサイズの大きな樹があったため、そこで一休みをすることにした。影へ入るなり、私はそこでごろんと横になった。地面に触れている部分から冷たさが身体に染みわたっていく。朔さんは木の根本に胡坐をかきながらもたれかかっている。



「生き返った…!」
「おー、思ってたよりも涼しいな」
「も、こっから出たくないんでここから先は朔さん一人でお願い」
「久しぶりに二人での任務だってのにその言い方はないんじゃね?」
「じゃあせめてもう少し外の気温が下がるまでここにいたい」
「んー、艇には4時ごろに戻る予定だったけど…、ま、いいか」
「さすが朔さんー!」
「ちょっとくらい遅れたって仕事がこなせりゃ何とでもなるしな?」



いたずらっぽく笑う朔さんに胸がどくんと大きく脈打つ。汗ばんだ額とか、いつもより多くボタンを開けたシャツからのぞく肌とか全てが私を魅了する。



「なんか朔さんいやらしい」
「それを言うならナナシもだろ」
「なんで」
「スカート短いからパンツ見えそうだし、上着着てないせいでブラも透けて見えてるし」
「……変態」



私は寝転がったまま頭上付近に座っている朔さんをはたこうとした。けど、リーチが足りなかった。



「ぶはっ、なにしてんだナナシ」
「朔さんを殴ろうとしたの」
「はっきり言うなあお前」
「だって本当だもん」
「おれ、お前の恋人なのにひどくね?」



そう言って朔さんは乱れた私のスカートを直す。



「だからパンツ見えるって」
「ん、ごめん」
「お、今日のはブラとセットのやつか?」
「見える、っていうか見てるよねそれ」
「細かいことは気にすんな」



ふいに片手を掴まれる。なんだろう、と不思議に思っていたら朔さんは自分の手を重ねたり、両手で包みこんだりして遊んでいるようだった。



「ナナシの手ってちっさいよなー」
「そう?」
「守ってやりたくなる」
「…じゃあ守ってください」
「おう、まかせとけ」



そしてまるで誓いを行うかのようにそれまで触っていた私の手の甲に軽く口づけをした。



「ナナシ、膝枕してやろーか?」
「えっ、いいの」
「おー、寝たら少しは体力戻るだろ」
「だったら朔さんも、」
「おれはナナシの寝顔見てる」
「それ寝づらいよ朔さん」
「冗談だって!おれも少し眠ろーかな」



私は上半身を起こし、朔さんの足の上に頭を置く。男の人だから筋肉質で少し硬めだけど、朔さんだからそんなことも全然気にならない。



「おやすみ、ナナシ」



彼の大きな手で頭を撫でられ、私はすぐに眠りの世界へ引き込まれていった。



二人が目を覚めた時には空がオレンジ色になっていて、後に平門さんから小言を言われたのはまた別の話である。