「影山ァ〜…」
「ンだよ」
「暑苦しいんだけど…」
「我慢しろ」
「ハァ…」



私は小さくため息を吐く。
それに反抗するかのように身体に回された腕に力が籠められるのを感じた。



「眠いんだったら寝ろよ」
「だよね、確かに眠いから寝るって言ったのは私だし?私だってこうしてベッドに入ってるんだから寝る用意はできてるハズなのになかなか寝れないんだよ、誰かのせいで」



最後の部分だけを強調する。言ったって意味がないことは百も承知だけど。
影山は後ろから優しく抱きしめてくるというよりしがみついている。それはもうガッシリと。
密着度が高すぎて体温もどんどん上がってきているのがわかる。



「なんで影山まで入ってくるの」
「だってお前寝たらオレは何してたらいいんだよ」
「床で寝たら」
「それひどくねェ?」
「ていうかくっつきすぎ」
「気のせいだろ」



そう言いながら自分の足を私の足の合間に差し込んでくる。
まったく、何が気のせいだ。



「影山がくっついてくるせいで暑くて寝るどころじゃないんだけど」
「オレはなんか眠くなってきたぞ…」



影山がはぁあああぁぁ…と私の耳元で息を吐き出し、ゾワリとした感覚が無意識に自身を襲う。



「いい加減離れてよ影山ー」
「イヤだ」
「ぬあっ」



身をよじって抵抗の意を示すとさらに力強くしがみつかれてしまった。
女の子相手に出す力じゃないんじゃないのこれ?



「イタイイタイイタイイタイ」
「そんなに力入れてねーし」
「でも痛いんだってば!」
「フンヌ!!」
「あっ!?」


影山が耳元で大きな声を出し、それとほぼ同時に私の身体が反転した。
目の前には彼の胸板がある。



「…こっちの方がいい」
「……暑いのは変わらないけど」
「あ゛?」
「サッセンした」
「お前はオレに抱かれてろ」
「………なんかやらしーセリフ」
「なっ!?そ、そんなつもりで言ったんじゃないからな!?」
「影山顔赤くなってるし?」
「なってねェ!」



布団の中でもわかるほどには赤くなっている影山の頬をスリ、撫でてみる。
すると途端に彼はぎょっとした表情で固まった。



「な、撫でんな…!」
「なんか可愛いなぁって思って」
「…………」
「なに、」
「さ、」
「?」
「誘ってんのか…?」



唇を尖らせ、視線を外しながらそう聞いてくる。今や私の身体に回されている腕に力は込められていなかった。



「そうだって言ったらどうすんのよ」
「……頑張る」
「何を」
「頑張ってナナシを可愛がる」



真顔で真っ直ぐな目をして言うもんだから聞いたこっちが恥ずかしくなってくる。まったく、変なところで素直なんだよな。



「今度はお前の顔が赤くなってンぞ」
「暑いからだよきっと。影山が離れてくれないから」
「離れないし」
「なんでよ」
「……まだ眠いのか?」
「(無視かい)少しね」
「ならこのまま寝るか」
「変なことしないでね」
「誰がそんなことすんだよ…!」
「え、影山」
「オレはそんなことしねェ…!」
「ハイハイ」



そして欠伸を一つ。うん、やっぱり眠い。
影山に間近で寝顔を見られるのは癪だけど、今はもう襲い来る睡魔に抗うことも面倒に感じる。



「もう寝るからね、ほんとに寝るから邪魔しないでよ影山」
「それって邪魔してほしいってことか?」
「違うわバカ」
「オレも寝る」
「服にヨダレ付けたらゴメンね」
「んなことしたらコロス」
「彼女に殺すとかひどい」
「寝るんなら早く寝ろよ」
「はいはい…影山おやすみ」
「ん、おやすみ」



そして再び彼の私を抱きしめる腕に力が籠ったのを感じた。
まあ、暑いけどたまにはこういうのもいいか。
そんなことを考えながら私は目を閉じるのであった。