「よー、大地」
「女の子がそんな言葉遣いしないの」
「いいのいいの、てかジャージありがとうね」
「上がってく?」
「うん」



日曜日の午前中、先日おれに借りたジャージを返すためにナナシがやってきた。今は寒さを感じる季節でもないのに、ナナシ曰く女子は体育の時にはジャージを着たがる習性があるらしい。男の自分にはあまり理解が出来なかったが、丁度ロッカーに置いてあったこともあって貸してやったのだった。部屋に入ってジャージを受け取るといつもとは違う匂いが鼻をつく。



「わざわざ洗ってくれたのか?」
「そんなの当たり前じゃん」
「ナナシの汗だったらぜんぜん気にしないのに」
「わ、その言葉なんか変態くさい」
「でもナナシんちの匂いがする」
「……クサい?」
「んーん、いい匂い」
「そ、よかった」



ナナシの家に行った時と同じ香りが自分の周りに漂う。この匂いを嗅ぐだけでムラムラときてしまうおれはやっぱり変態なのかもしれないと思った。



「あ、そういえばね、」
「うん?」
「体育の時それ着てたらみんなに澤村澤村呼ばれて大変だった」
「からかわれた?」
「うん」
「まあ、名前入ってるもんな」
「そうそう。でもなんでか新鮮な感じみたいな?」
「何でだ?」
「大地と同じ名字だなーって」
「……可愛いなあナナシは」



ほんわかとした雰囲気でそんなことを言われて自分まで嬉しくなり、ナナシの頭をぐりぐりと撫でまわしてやる。髪がぐしゃぐしゃになって文句を言われたがそんなこと気にしない。



「ちょっと!やーめーてーよーーー!」
「もう、なんでそんなおれを喜ばせるようなこと言うんだよ?」
「だってほんとのことだもん!」
「ほら、またそんなことを言う…言われるおれの身にもなれよなー」
「え、どーいうこと、」



ナナシの両肩を掴んでその場でゆっくりと押し倒す。ナナシが不思議そうにおれを見つめる。



「ちょ、大地?」
「一緒の苗字になりたいならさ、」
「?」
「既成事実作っちゃう?」
「へ…!?き、既成事実って…」
「子供出来たら一緒になるしかないだろ?」
「こ、子供って……!」
「おれはナナシとのなら欲しいけどなー」



ちゅ、と彼女の額に口づけを落とす。おれが本当にそんなことをすると思っているのか、ナナシの顔は不安げだ。



「はは、冗談だよ」
「っ、もう!」
「でもナナシとそうなったらいいなって思うのはほんとだから」
「………なんでそんな恥ずかしげもなく言えるのよ…」
「だって事実だし?」
「……し、って………は」
「え、なに?」
「っ、私だっていつかはそうなりたいって言ったのー!」
「!」



相当恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして横を向いてしまうナナシ。でもそんな行動はおれを煽るものでしかない。おれはそろり、とすでに反応しかけている下半身をナナシの曝け出された太腿に軽く擦り付けると、ナナシの表情が固まった。



「だ、大地サン?」
「ん、なに?」
「何か今足に当たったんですケド」
「当てたんだってば」
「…………はあ」
「こら、溜息つかない」
「大地って本能のままに行動するときあるよね…」
「それはナナシにだけだから大丈夫」
「何が大丈夫なの……」
「まあまあ、将来の予行演習ってことでいいだろ?」
「……ナカに出したら怒る殴る蹴る嫌いになる」
「だから女の子がそんなこと言うなって?」



ゆるゆると未だに赤い頬を撫でてやっていたら、次第にその気になってきたのかナナシは何か言いたげな視線を投げかけてきた。



「大地、」
「うん?」
「………やっぱ何でもない」
「なに、言わないとわかんないよ」
「っ、何でもない!」
「…素直じゃないな、ほんと」



おれは横を向いてしまった顔をぐいっと正面に向かせ、無一文に閉ざされている赤い唇にキスをしてやった。