「まだ9時か…」



私は時刻を確認し再びぬくいベッドに戻る。今日は土曜日で学校もない。よし、ゆっくり寝れる。徹は来るけど。でもそれも11時って言ってたからまだ寝ても大丈夫よね。私の脳はまだ寝たりないのかベッドに入った途端に瞼が重くなってくる。その時、ガチャ、と部屋のドアの開く音が聞こえ、私の意識が絶たれようとしたその瞬間、



「ナナシちゃんおっはー」
「…………………ん?」



おっはー?おかーさんてそんな言葉づかいしたっけ?ていうかこんな声低くないよね。しかもなんかこの声聞いたことある気がする。私は目をゆっくりと開けた。



「おはよーナナシ?」
「………及川サン何やってるの」
「もうー、寝坊だぞっ」



彼はそう言いながら笑顔で私の額に軽くデコピンをかましてきた。ていうかなんなの彼のこのテンションは。というかまだ9時15分なんですけど。



「なんでここにいるの?」
「だってナナシんちに遊びに行くって言ったじゃん」
「来るの11時って言ってなかった?」
「時間がおれに追いつけなかったみたい」
「なんだそれ」
「何でもいいけどさ、早く遊ぼうよっ」



ベッドの淵に手をかけて子供みたいに私をせかす彼。そんなこと言ってもまだ何の準備もしてないんですけど。まだパジャマ着てるし、朝ごはんも食べてないし。



「ほらこれ買ってきてあげたから!」
「あ、ありがと」



手に持っていたコンビニ袋を漁って差し出されたのは私がいつも好きで飲んでいる紙パックのストレートティー。寝起きで喉も渇いていたため、感謝もそこそこにストローを受け取ってさっそく口を付ける。



「おいしい?」
「うん」



おれにもちょーだい?、って言ってきたため紙パックを手渡す。冷たいものを体に取り入れたことで、意識も先ほどよりはっきりしてきた。そして他には何か買ってきてないのかなと思い、徹の持ってきたコンビニ袋を覗く。そこにはガムやらスナック菓子やらがたくさん入っていた。一体どんだけ買ってきたの。若干呆れながら買ってきたものを物色していると袋の底にそれらとはまったく雰囲気の異なるモノが。



「…なにこれ」
「え?近藤さんだよ」
「全世界の近藤さんに謝れこのやろう」
「コンドームだよ」
「ごめん、言い直す必要もないです。てかなんでこんなの買ってきたの、」
「だってナナシんちにはないでしょ?」
「え、これうちに置いとく気?」
「うん」



親に見つかったらかなり気まずいじゃないか。平気な顔してそう言う彼はそこらへんは考えてないらしい。というか全然気にならないらしい。まあ、男だもんね。



「今日のノルマは3回だからなー?」
「は、むりむり過労死する」
「ナナシならできるっ」
「できないよ、てかなんでその方向で話が進んでるの」
「その方向って?」
「セックスする方向」
「なんだナナシもその気なんじゃん」
「ねぇ、頼むから人の話をしっかり聞いて徹」
「聞いてるしー」
「じゃあ着替えるから部屋の外で待ってて」
「手伝おうか?」
「待ってて」
「む、……どうせ全部脱がされちゃうのに…」



不満げな顔をする徹。最後の言葉は聞かなかったことにしよう。半ば強制的に彼を部屋から追い出し適当に服を用意する。今日はどこも出かけないし、特別おしゃれしなくてもいいか。



「まだですかーあ」
「まだです」



部屋の外から声をかけられる。まだ一分もたってないぞ!



「今何してるの?」
「着替えてる」
「上?下?」
「上」
「今日のナナシちゃんの下着は何色ですかー?」
「絶対言わない」
「いいもん後で見てやるから」
「見せてあげないし」
「せっかくゴム買ってきたのにー」
「お持ち帰りしてくれたらいいと思う」
「え、ナナシをお持ち帰りしていいの!?」
「………徹ってバカだよね、うん」
「ていうか早く着替えてよ」
「着替えてるってば!」



今日も私は元気に彼に振り回されてます。