「あ、鉄朗」
「お、ナナシ」



耳にイヤホンをさして、曲がり角を曲がったらいたのは可愛い女の子…じゃなくてバレー部のキャプテンでした。



「あれ、部活は?」
「今日からテスト一週間前ですべての部活は練習禁止なの」
「あー、そうだっけ」



あ、この曲飛ばそう。制服のポケットから音楽プレイヤーを取り出し、ピッ、とボタンを押す。



「音楽聞くなっつの」
「えー」
「えーじゃない。おれがいるってのに」
「だって音楽聞きながら通学がわたしの日課なんだもん」
「…一緒に登校できなくて悪かったな」



鉄朗が顔をふい、と横に向けて言う。そーいうつもりで言ったんじゃないのに。いちいち気遣ってくれる彼がとても愛おしくなる。



「鉄朗…」
「なんだ、」
「、テレてる?」
「は、テレてねーし」
「耳赤いけど?」
「…うっせ」
「鉄朗も音楽聞く?」



ほい、と耳に差していたイヤホンの片方を取り、鉄朗に手渡す。身長差あるけど、なんとか大丈夫なはず。



「なに聞きたい?」
「エロい気分になるやつ」
「んなもんネーヨ」
「んだよ…じゃあロック系で」
「なら最近人気のあるのにしてあげるー」
「ナナシ、」
「?」
「ん、」



左手で音楽プレイヤーをいじりながら、無言で差し出された左手をわたしはぎゅっと握りしめた。



「ふらふらすんなよ」
「え、なんで」
「イヤホンが取れる」
「あ、鉄朗!猫がいるっ」
「…言った傍から……(はあ)」