※現パロ(同棲ネタ)



「ベルトルさーん、お風呂どうぞー」



ぺたぺたと足音を立てながらこちらへ歩いてくるナナシ。その格好はショートパンツに生地の薄そうなTシャツだった。タオルで髪を拭きながら、ソファで本を読んでいた自分の隣に腰を下ろす。その時、ちょうど開いていたページに水しぶきが飛んだ。



「ナナシ、しっかり髪を乾かさないと」
「別にいいよー」
「ぼくの本に水しぶきが飛んだんだけど?」
「あ、ごめんね?」
「あとちゃんと名前で呼んで」
「うん、ごめんねベルトルト?」



お風呂上りの火照った手で頬を撫でられる。いつもより体温が高くなっているせいかすぐに気持ちよくなってきた。そうしているうちにまた本の上に水滴が落ちる。



「ぼくが髪乾かしてあげるからちょっと待ってて」
「えー、別にいいのにー」
「そうしないと本が傷んじゃうでしょ」
「じゃあ本閉じればいいじゃん」



うん、至極まともな意見だ。だけど髪を乾かすだけでそこまで拒む必要もないのではないかと思うのも事実。洗面所からドライヤーとくしを持ってきてナナシをソファからリビングの椅子へと移動させる。そしてドライヤーのスイッチを入れて乾かし始めた。



「夏だからって自然乾燥してたら髪傷むんじゃない?」
「え?なに?」



ナナシが普段よりも大き目の声で聞き返す。ドライヤーの音で聞こえなかったらしい。特別重要なことを言ったわけでもなかったためとりあえずなんでもない、と返答をして髪を乾かすことに集中する。髪は肩の下あたりまでの長さだったため、15分程度ですべて終えることができた。そして首筋にちゅ、と口づけを落とす。



「ほら、終わったよ」
「わ、ベルトルトやるの早い」
「そう?」
「もしかして今までいろんな女の子にこうしてきたの?」
「そんなばかな、ナナシにしかやったことないよ」
「今回が初めて?」
「そうだよ」
「それにしては手馴れてるー」
「そこは器用って言ってほしいな?」
「まー、ベルトルトが器用ってのは知ってるけどさー」



ソファに再び座ってごろりと横になるナナシ。ああ。せっかくきれいに乾かしてあげたのに。



「なんかそーいうの気になっちゃう」
「…それって嫉妬の一種?」
「……そうかもね、」



小さなため息が一つ吐かれる。かわいいなあ。そう思って手に持っていたドライヤーをテーブルに置き、ソファで横になっているナナシの頭部付近の床に座り込む。そし乾かされた綺麗な黒髪に触れる。



「ベルトルト?」
「ぼくはナナシだけだから、大丈夫」
「…大丈夫って?」
「うーんと、過去とか気にせず全力でぼくを愛してほしい、みたいな?」
「…そんなのもうずっと前から全力だよ」
「そっか、それならぼくもそうだ」



ナナシがソファから起き上がって両手を伸ばしてきた。それに応えるため膝立ちになりながら彼女を抱きしめる。



「ベルトルトあったかーい」
「ナナシが温かいんだよ」
「このまま寝れるかも」
「だめだよせめてお風呂には入らせて?」



それからならどんだけでもハグしてあげるからと言えばナナシは嬉しそうにふふっと笑った。



「ていうかハグだけ?」
「うーん、ナナシが望むものならなんでもしてあげるよ」
「なら私もベルトルトが望むことなら頑張って応えてあげるー」
「…お風呂出てくるまで起きててね?」
「うん、頑張る」



そして形の良い唇に小さなリップ音を立てて口づけ、浴室へ向かったのだった。