「兵長!」



バタン!と大きな音を立てて部屋のドアが開けられる。それと同時にオレはわずかに眉をひそめた。基本的に緊急事態でもないときに騒がしくされるのは好きではない。



「ナナシか」
「そうです私です!じゃなくて!!」



いつになく真剣な顔をして早足で自分の座っているソファへと歩み寄るナナシ。何か問題でも起きたのだろうか、そう頭の隅で思った。現在、目の前にはナナシが立ち、オレはそれをソファから見上げる形となっている。



「おい、何でもいいがとりあえず座れ」
「え、別に大丈夫、」
「オレが癪に障るんだ。座れ」



手首を掴んでぐいっと引っ張れば、ナナシはすぐにソファへ沈み込んだ。



「兵長は見下ろされるの嫌いですか?」
「おい、今はその変な敬語やめろ」
「な、ヘンって!ひどい!!」



仕事では敬語を使うようにって言ったの兵長じゃんか、と隣でむくれるナナシ。



「二人の時に兵長って言うのもいい加減やめろ」
「へ、兵長は兵長だもんね!」
「…頑固者が」



小さくため息をついてナナシの肩へと腕を回す。するとナナシは嬉しそうにボフンと跳ねるようにして自分の方へと距離を詰めた。



「(……こういうところに惚れたのかもしれん…)」
「ん?どしたの兵長」
「…何でもない。ところで何か用があって来たんだろ」
「あ、そうなの!」



思い出したかのように言うナナシ。



「あのね、今度一緒にお風呂入ろ!」
「?」



瞬間的に彼女の言ったことを理解することができなかった。というよりもいまいちその真意が掴みきれない。脳内には疑問符ばかりが浮かび上がる。そんなオレを余所に、ナナシは言葉を続けた。



「だって兵長ってハンジさんとお風呂入ったことあるんでしょ!?」
「あー、昔のことだがな」
「だったら私とも入ってよ?」
「………」



おかしい。話の流れがおかしすぎる。確かに以前にはハンジにしつこく誘われて半ば強制的に一緒に入ったということがある。だがそれは5年以上も前のことだ。そしてそのことがナナシに自分と風呂に入りたいと思わせる要因を含んでいたとは考えにくい。



「…なんで、」
「だって付き合ってるんだからそれくらいいいじゃん?」



オレの膝に手を置いて瞳を輝かせながらこちらを見つめるナナシ。悲しいかな、二人の身長がほぼ同じということもあって上目づかいをされる機会はほとんどないのだが。



「だめ?」
「まあ、別に構わんが…」
「やった!じゃあ今日の夜決行しよう!」
「だがいいのかナナシ?」
「??何が?」



案の定不思議そうな顔をするナナシ。オレは肩に回していた腕に力を籠めて彼女を自分の方へさらに引き寄せ、さらけ出された喉元をツゥ、と舐め上げてやった。



「っ!!」
「付き合ってる者同士で風呂に入るということはこういうことだからな?」
「そ、そんなの聞いてない」
「まあイヤなら一人で入ればいいだけの話だ」
「兵長ずるい!」
「お前から言ってきたんだろうが」



ふと視線をナナシの顔から外すと、シャツの隙間から赤い跡が見えた。これは前回の行為の際に自分が付けたものだ。あの時と比べるとずいぶんと薄くなってきている。



「また、付け直さないとな…」
「え?」
「消えかかってる」



断りを入れることなくシャツをぐい、と下の方へ引っ張り、その跡を見せる。まあ毎日見ているとは思うが。



「も、兵長やめてよ!こんなとこで!」
「何もしてねえだろうが」
「まだ外明るいじゃんか!」
「暗かったら何してもいいのか」
「そ、そーいうことじゃなくて!」



慌てるナナシを無視してオレは彼女の顎を掴み、形の良い唇に軽いキスをする。すると、すぐにナナシは大人しくなった。



「今夜が楽しみだな」
「お風呂一緒に入るだけだもんね…!」
「まだそんなこと言ってんのかお前」
「それにセ、セックスのためなんかじゃないし…!」
「そんなことばかり言ってると今この場でヤっちまうぞ」
「(ヒィ!!)」