※現パロ(高校生設定) 「っ、……っは、」 「…口開け」 「うっせ…!」 「いってぇ…!」 胴体に蹴りを食らわせて唇が離れた。そして酸素が上手く行き渡っていない脳みそを必死に動かしてなぜこんな状況になったのかを考える。今日は日曜日で、何も予定がなかったオレは寮の自室で暇を持て余していた。そしてそんなときにこいつが―同級生であるジャン・キルシュタインが突如部屋に乗り込んできたのだ。理由を聞けば、明日までの課題がまだ終わってないから手伝えとのことだった。その時に、座学はオレよりもできるくせに嫌味か、と小さく悪態をついたのを覚えている。 「(でも…なんで、)」 なんでオレはジャンに押し倒されてんだ?さっきまでは二人で机に向かって勉強してただろ。ていうか、キス、されたよな。男同士でキスってなんだよ。こいつそんなに女に困ってんのか?そう思うと無性に苛々が募ってくるのがわかった。ジャンはまだオレを上から見下している。くそ。オレは無言で身体を反転させ、覆いかぶさっていた身体の下から脱出する。しかし、すぐに不満げな声が耳に入ってきた。 「おい、逃げんな」 突然人を押し倒してキスまでした上にこの物言い。笑って見過ごせという方が無理だろう。自分にそんな仏の心を持って生まれた自信は一切ない。オレはジャンの方へ向き直り、胸倉を乱暴に掴む。 「っ、お前!いい加減にしろよ!!」 「は?」 「どーいうつもりだ!」 「どーいうって、何が、」 「オレは男だぞ…!?」 「んなの、知ってるっつの」 「じゃあ何でこんなことすんだよ…!」 「……………さあな」 顔色を変えることなくに言ってのける目の前の男に、言葉を失う。男のオレに興味持つとかほんとアタマおかしいんじゃねーのこいつ。そう思っていたら胸倉をつかんでいた手がパシリ、と払いのけられる。 「……お前、ホモなのか……?」 「ふざけんな。ちげーよ」 「でもそうじゃなかったらこんなことしないだろ」 「…オレのこと軽蔑したんだろ」 「違ぇよ、突然のことで思考が追い付かねーんだよ」 確かにジャンはムカつく奴で今まで何度取っ組み合いの喧嘩をしたかわからない。だけど不思議なことにそれがそのままあいつに対する嫌悪感に繋がるということはほとんどなかった。だからこそ今まで何度も喧嘩をしてきたのだと思う。また、今日のように課題を手伝ってやったり手伝ってもらったりということもこれまでにしばしばあった。アルミンにも「喧嘩するほど仲がいいっていうでしょ」なんて言われたことがあったっけな。だからこそ今この場で起きた出来事が衝撃的で受け入れ難かった。今までの決して良くはないがだからといって悪くもなかったこの関係が壊れてしまいそうで。 「……わかんねぇ。なんでこんなことすんだよ…」 「エレン…?」 視界がぼやけてくる。なんでこんなに泣けてくるんだろう。全く理解できない。 「お前なんで泣いて、」 「泣いてねえ…っ!」 もうわけがわからない。ジャンがなんであんなことをしたのかも、それによって自分がこんなに悲しみに打ちひしがれているのかも。手の甲で溢れ出る涙を拭ったところですぐに視界は不明瞭になる。 「エレン、」 「もっ…、出てけよっ」 「エレン」 突然両肩をグッ、と強く掴まれその瞬間身体が委縮する。驚いて涙を拭いた後に正面を向くとさっきとは違う表情のジャンがいた。 「あのな、こんなこと言ったら軽蔑どころじゃすまないかもしんねえけど、」 「?」 「オレはお前に惚れてる」 「………は?」 思考が止まり、その言葉を理解するのにしばらく時間がかかった。 「さっきは恥ずかしかったからはぐらかした」 すまん、と視線を逸らして謝罪するジャン。そしてズズッと鼻をすするオレ。こいつがオレに惚れてる…?男のオレに?というかミカサはどうしたんだよ、あんなに常日頃から目で追ってたくせに。よく見たらジャンの顔がいつもより確実に赤い。大丈夫かって心配になるくらい赤い。 「オレ男だぞ…?」 「…惚れた以上そんなの関係ねーだろ」 「顔、赤いけど?」 「うっせーよっ!見んな!」 オレの両肩から手を離し、腕で顔を覆う。いや、隠しきれてねえから。それにしてもこの気持ちは何なのだろう。ついさっきまではこれまでの関係が壊れることを恐れていたはずなのに。どうして今は新しい関係を築きあげることができるということに喜びすら感じるのだろうか。 「で、どうなんだよお前は」 「何がだよ」 「オレと付き合ってくれるのか?」 小声プラス早口。ちゃんと耳を傾けていなかったら聞き取れなかっただろう。ジャンは未だに腕で顔を覆っている。耳まで真っ赤だ。付き合う、なんて言葉を聞くとなんだかむず痒さを覚えた。男が男と付き合うってどんな感じなのだろうか。女の時と一緒なのかな。 「…オレ、も、お前が、………気になる…かもしれない……」 「……んだよそれ」 「…知るか」 「じゃあ付き合ってくれんのかよ?」 「た、ぶん、な」 「煮え切らねえな」 「うっせ…こっちだって惚れた、なんて今まで言われたことねーよ」 「…お前まさか童貞?」 「…………」 「まじかよ」 「…………」 オレはジャンの態度にムカつきつつも恥ずかしさで俯いていたが、突如肩をポンとたたかれる。 「まあ、そんなことはどうだっていいんだけどよ」 「…」 「これからよろしくな、エレン」 「………」 「よし、課題の続きやろーぜ?」 「………つーかこれくらい一人でできんだろ…」 「あァ?」 「言い忘れてたけど1週間ドリンクおごれよ」 「なっ、聞いてねえぞそんなの!」 「だから忘れてたって言っただろうが…!」 こうしてオレたちは付き合うことになったのだった。もちろん周囲には内緒で。 |