『風邪ひいたから今日は学校休む』



朝起きると、自分のケータイにそう連絡が入っていた。このメールを見た瞬間私は少し驚いた。赤司くんが風邪をひくなんて付き合い始めてから一度もなかったのだ。そもそも弱ってる赤司くんなんて想像ができない。私はそのメールに簡単に返信をし、学校へ向かった。出来ることなら私も学校を休んでお見舞いに行ってあげたかったが、今日に限って数学のテストが行われるためそちらを優先せざるを得ない。私は学校が終わり次第その足で彼の家に向かった。ピンポーン、とインターホンを鳴らし、しばらく待っているとドアが開く。現れた彼の姿はTシャツにハーフパンツ、そしてマスク着用という普段ならばあまり見られない格好だった。私が玄関に入った瞬間倒れ込むように赤司くんが抱き着いてくる。



「久しぶりのナナシだ、」
「もう、1日も経ってないでしょ」



私は抱き着いて離れない彼をそのまま引きずるようにして、ベッドのある部屋へ向かう。そしてベッドの中に彼を納める。



「風邪大丈夫なの?」
「薬飲んだから今は結構楽」
「飲み物買ってきたから飲んで」
「ありがとう」



相当しんどいのだろうか、目は涙ぐみ、頬はほんのりと赤くなっている。



「お昼ご飯食べた?」
「…食べてない」
「やっぱりー。お粥作ってあげようか?」
「食欲ないからいらない」
「でも食べないと治らないよ?」
「ナナシが来てくれたからもう大丈夫」
「何言ってるの」



そう言って額に滲む汗を拭きとり、そこに手を置けばじんわりと熱が伝わってくる。冷えピタ買ってきてあげればよかったな。



「ナナシの手冷たくて気持ちいい」
「熱があるからだよ」
「今日、ぼくがいなくて寂しかった?」
「んー、どうだろう、寂しかった、かな?」
「やっぱり」
「今日の征十郎は大人しくていつもとなんか違う」
「風邪ひいてるからね…ナナシはこっちのほうが好き?」
「ううん」
「なら、よかった」



赤い顔をしてふふ、と笑う彼。そんな彼を見ていたら、次第に自分の中で彼のためにできることがあれば何でもしてあげたいと思うようになってきた。これが母性本能ってやつだろうか。とりあえず私は両手で彼の手を包んでみた。



「ナナシ?」
「風邪ひくと人肌が恋しくなるって言うからさ?」
「…すごい、今ぼくも手をつないでほしいって思ってた」
「できる彼女でしょー?」
「それって自分で言う言葉じゃないでしょ…」



しばらくそんな会話をしていると、眠くなってきたのか、赤司くんの目がまどろんできているのに気が付く。



「征十郎、眠い?」
「ん、少し」
「じゃあ寝ていいよ?」
「ナナシも一緒に寝よう?」
「でも」
「…あ、ごめん風邪うつるよね」
「そ、そんなこと気にしないよ!ただ邪魔しちゃうかなと思って…」
「ぼくが一緒に寝てほしいんだから大丈夫だよ」



優しくそう言われ、彼を覆っている掛布団を少し捲って一緒に横になる。一人用のベッドなため、互いに身体を寄せないと落っこちてしまいそうになる。私たちはベッドの上で身体を捩り、向き合った。



「征十郎の身体熱い・…」
「……なんか厭らしい言い方」
「もう、病人でしょ」
「でも風邪のときは汗をかくといいんでしょ、確か」
「そうだねー」



何ともなしに答えた次の瞬間、その意味にはっと気付く。そして彼の方へ目を向ければマスク越しでも何を言いたいのかひしひしと伝わってくる。



「今日はだめだからね?」
「……冗談だよ」
「そんな風には見えなかったけど」
「治ってからたくさんする」
「はいはい」
「でも汗はかいた方がいいと思うから、もっとこっち来て」



背中に腕を回されぐいっと引き寄せられる。身体が接触した部分から彼の熱がじわじわと伝わってきてあっという間に暑くなってきた。



「おやすみナナシ」
「ん、おやすみ」



そして私も目を閉じた。再び目覚めた時にはすでに横にいた赤司くんは目を覚ましていて、外は日が沈んでいた。どんだけ寝てたんだ私。



「む…」
「おはようナナシ」
「赤司く、…征十郎、身体の調子はどう?」
「大分良くなったみたい」
「ならよかった」
「たくさん汗かいたからね」
「私もだよ」
「もう元気になったから今度はもっと激しく汗かかない?」
「へ…?」
「セックスしよう?」
「え!?ちょ、征十郎!?」



私の制止も無視して私に覆いかぶさってきた。いくらなんでも治るの早すぎでしょ!結局その日、私は赤司家にお泊りしていくことになったのだった。