:: What does he study of?
「あの男とどこで知り合った?」
「え」
「言え、さもなければバラす」
いきなり真顔でなんて恐ろしいこと言うんだろうこの人は。浅い眠りから目が覚めてトイレを借りようと寝ていたシーザーを置いて部屋を出た直後に捕まってしまった。このクマのひどい船長に。クマと言えば、さっき本当のクマもいたような……とにかくなんて運の悪い。現在は乗船した時に最初に訪れた彼の部屋にいる。
「あの、あなた、シーザーの知り合いですか?」
「あァ?」
「(こわいいいいいいい)」
「そんなことよりオレの質問に答えろ」
「質問…」
「どこで、あの男と知り合ったんだ」
「えーと、私、昔彼に拾われて…」
「拾われた?」
「乗ってた船が難破して…で、流れ着いた先に研究所があったというか…」
「そうか」
船長さんはそう言ってニヤリと笑った。なぜだかこの笑みからは良いことを想像し難い。それに早く部屋に戻らないとシーザーが起きて面倒なことになっちゃうよ。私が早く部屋に戻らせてくれ、と訴えようと口を開いたが、それは同時に彼が声を発したことで遮られてしまった。
「お前、あの男がどんなヤツか知ってるのか?」
「えーと、科学者のシーザー・クラウンじゃないんですか?」
「なら、そいつは何を研究している?」
「……………………さあ??」
呆気にとられる船長さん。何かヘンなこと言ったのだろうか。シーザーの研究?そんなの知ったことではない。私が興味あるのは彼の研究が失敗するのを見ることくらいだ。
「なんで知らねェんだ」
「なんで知ってないといけないんですか?」
「一緒に住んでんだろ」
「な!何で知ってるんですか!」
「拾ってもらったって言ってただろうが」
「あ、そうか」
「…………もう今までの質問は忘れろ、聞いたおれがバカだった」
何その目。そんな馬鹿とか哀れとか言いたげな目を向けないでほしい。ついでに言えばため息もやめてほしい。
「…お前、船酔いしたのか」
「え?」
「顔色見たら分かる」
「そ、そんな顔色悪いですか、私?」
「違ェよ、オレは医術を心得てる」
「船長兼船医って…!一体誰にアピールしたいんですか」
「バラしてやろうか」
「ごめんなさい」
すごく不機嫌そうで目つきも悪い人だけど、心配してくれたのだろうか。というか顔色だけで症状を当てるなんて。船長さんは近くの引き出しから薬を取りだし、私に渡してくれた。…この人意外と優しい?
「そろそろ部屋に戻って下船の準備をしておけ」
「あ、はい」
「それともう一つ」
「何ですか?」
「テメェの名前は何だ」
「ナナシです。一応シーザーの恋人兼助手やってます」
「助手が研究内容も知らねェのかよ」
「むっ、船長さんこそ教えてくださいよ!」
「ローだ。トラファルガー・ロー」
「ローさんですね、覚えときます」
「……嫌でも覚えるだろうな」
「え?」
私はローさんの言葉の意味が理解できないまま部屋を後にし、行きたかったはずのトイレも行かずシーザーのいる部屋へ直行した。部屋へ戻ればまだシーザーは寝ていて、とてつもなく安堵する。起きていたら本当にうるさいもの。そして下船の旨を伝えるため、私は彼の鼻と口をふさいでやった。