:: Insomnia
こうして研究所に戻るためにシャチさんとペンギンさんの乗る船にお世話になることになった私たち。船があるという場所に向かう途中も私の横でシーザーは不機嫌だった。どうにも私が親しくなった人たちの船で一時的とはいえ世話になることが気に食わないらしい。
「シーザー、機嫌直してよ」
「フン…!」
「研究所に戻るまでなんだから」
「……他の奴らを見んじゃねェぞ」
「ふふ、わかってるって」
「何笑ってんだコラ」
「え?やっぱりシーザーって可愛いなーって」
「かっ、かわっ、可愛いとか言うんじゃねェ!」
「いいじゃんかー」
「よくねェ!」
そんなことを話しているうちに、海に面した場所に到着し、前を歩いていたシャチさんとペンギンさんが立ち止まる。
「これがオレたちの船だ」
「すげーだろ!」
「わ、黄色い」
「え、そこ!?」
「シュロ、潜水艦になってるのか」
「そうだ」
「こんな船見たことない!」
「まァいいから乗れ!船長のとこに連れてってやる」
船に乗るとそこにはたくさんの人間がいて、ペンギンさんが彼らに戻ったことを告げると、皆が顔をこちらに向けた、というか私たちを凝視した。その行動にどことなく萎縮してしまう。
「船長はこっちだ」
「あ、はい!」
通りすがる人全てが物珍しそうにこちらを見る。一方シーザーはと言えば、そんな彼らに対してこっち見んじゃねェ!とものすごいケンカ腰である。この状況でもそんな態度をつることが出来る彼が少し羨ましくなった。そんな中、ヒソヒソと話す船員の話が聞こえてきた。
「あの男、どこかで見たことねェか?」
「そうか?どうせお前の気のせいだろ」
「いや、絶対にどこかで…」
ドフラミンゴさんのときもそうだったけど、シーザーってやっぱり有名なんだなと、改めて感じた。だけど、名前までは出て来ないらしい。…知名度としては微妙?なんてことを考えているうちに前を歩く二人が一つの扉の前で止まり、ノックをして部屋に入った。
「船長、ただ今戻りました!」
「あァ、出向の準備はできたか?」
「もうすぐ完了するようです」
「そうか」
「あ、それとですね船長、」
「なんだ」
乗船希望者っス!、とシャチさんが私たちを彼に紹介する。ここでようやく彼がこちらを向き、私たちへと視線を移した。しかし彼が私を見ていたのはほんのわずかな時間で、隣にいるシーザーへと視線を移したとき一瞬身体が強張ったかのように見えた。そしてニヤリと口角を上げる。もしかしてシーザーの知り合いなのだろうか。
「シーザー、知り合い?」
「いいや、知らねェ」
「あ、そうなの」
「あんなクマのすげェやつ見たことねェよ」
「不眠症なのかな」
そんなどうでもいいことをこそこそと話していたら、聞こえていたのか思い切り舌打ちをされてしまった。ひどい。
「お前ら、」
「何スか?」
「こいつらどうしたんだ」
「や、家に帰りたいっつーんで乗せてやろうかなーって」
「それはお前の決めることじゃないだろうが」
「はは、そっスよね!」
「しかし聞いたところ二人の住んでいるところは我々の船の航路上にあるので、ログが溜まる前に出航すれば問題はないかと」
こんなにも面倒くさそうなオーラを出す人ってそうそういないんじゃないだろうかって思うくらい、面倒くさそうだ。このままでは再び陸に戻されてしまうと思った私は、一歩前に進み出て、自ら頭を下げる。
「おねがいします!じゃないと私たち家に帰れないんです!」
「おい、何頭下げてんだナナシ」
「うっさい!シーザーも頭下げてよ!」
「何でオレが…!」
「おい、」
「、何ですか?」
「船がないのにどうやってこの島まで来た?」
「……通りかかった船を拝借しました」
海賊相手だったらこれくらいのことを言ったって罪にはならないはず。これに反応したのがシャチさんだった。
「拝借って、盗んだのか!?」
「盗むワケねェだろバァカ!」
「も、シーザー黙っててほんと。盗んだんじゃなくて乗ってた船員たちを眠らせて、この島に来たんです」
「眠らせて?」
「まァ、いろいろとあって…」
説明するのが面倒になってきた私は言葉を濁す。シャチさんはまだいろいろと聞き足りないようだったが、横にいたペンギンさんによって制止されていた。よかった、と思っていたその時、視線を感じた。そちらの方へ目をやるとあのクマのひどい船長がこちらをじとーと見ていた。不思議に思って私も見返していたら、かぶりを振って小さくため息を吐かれる。さっきから何なんだこの人。
「……ペンギン、部屋を一つ用意しとけ」
「わかりました」
「え、じゃあ…!」
「モノのついでだ、仕方ねェ」
「やった!ありがとうございますー!」
こうして少しの間お世話になることになりました!