マスターとの楽しい日々! | ナノ
:: Let's stalk!

「じゃ、行ってくるね!」



そう言って部屋の鍵を持って出かけたナナシ。そしてその姿を不安一杯に見送った自分。しかしナナシが部屋を出たすぐ後に自分も部屋を出る。なぜかだと?そんなの言うまでもないことだが教えてやる。感謝しろ。



「っ、後をつけるに決まってんじゃねェかァァァァアアアアァァ」



しかし地上でそんなことをしていたら周りがいろいろとやっかいだと考え、悪魔の実の能力で姿を隠しながら少し離れた上空からナナシを追うことにした。宿屋を出ると数メートル先にナナシの姿があり、ある店へと入っていった。…おお、初っ端から下着を買いに行きやがった。ふむ、どんなのを買うのだろうか。オレとしては黒系が好みだが、ナナシはいつも白とかピンクのが多いからな、今回も同じようなものを買うのだろうか。いやいや、もしかしたら新境地を求めて且つオレのために黒系の下着を買うかもしれん。そうだったらオレはアイツを抱きしめてやろう。もし普段と同じやつだったらどうしようか、…やっぱり抱き締めてやろう。好みじゃないとはいえ可愛いだろうしな。…お、出てきやがった。手に袋を持っているあたり、何かしら買ったみたいだ。シュロロロ、帰ったら思いきり問い詰めてやる!



朝とはいえ、街の中心まで来ると人の量が増えてきた。でも、オレがナナシを見失うことはねェけどな!能力は使うなと言ってあるのだから、まず大丈夫なはず。そんなことを思いながら再びナナシに視線を戻すと、ナナシは昨日の親父にまた話しかけられていた。なに気安く話しかけてんだ親父コラァァァアアアアァァ!たかがフルーツでお前になびくほど軽い女じゃねェんだよナナシはァ!まァ旨かったけども!ナナシもなに楽しそうに話してンだ!その笑顔オレに向けてくれ!そんな顔研究所じゃ見たことねェぞ!?はっ、まさかアイツとの会話の方が楽しいとかそういうことなのか…!?今まで何年も一緒にいたってのに、何だこの仕打ちは…!いかん、泣きたくなってきたぞ。ナナシの頭上にだけ大雨が降りそうだ。悲しみに打ちひしがれてたら、ナナシは親父と別れて再び歩き始めた。オレは宿から持ってきたティッシュで鼻をかみ、その後を追った。



次は服屋に入ったようだ。ナナシが店の中に入ってしまうと上からでは様子を伺えない。しかしだからと言って目を離すと見失うかもしれない。いや、見失わねェけど!でもこの状況、はっきり言ってヒマである。何か実験材料でも持ってきたらよかったか。いや、そんなことをしたらそっちに夢中になって、結果ナナシを見失うことに……なるワケねェだろうがァ!オレはそんなヘマは絶対ェしねェ、するわけがねェ!オレは世界一の科学者だからな!シュロロロロロロロロ!それにしてもナナシのヤツ出て来ねェな。ナナシが入っていった店の屋根に座り、しばらく待った。その間にも太陽が本領を発揮し始め、じわじわと体温も高まってくる。このままナナシが出て来なかったら自分は枯れて死ぬんじゃないだろうか。…その場合ナナシは墓を作ってくれるだろうか。むしろ一緒の墓に入りてェ。ナナシのことだ、初めのうちは嫌がる態度を見せて、いざとなったらオレと同じ墓に入ることを望むに違いない。でもオレが先に死んだらそんなこと知りようがねェよな。いや、待てよ、そもそもナナシを置いて死ぬのはかわいそうすぎやしねェか。それならばこんなところで枯れている場合じゃねェな。そう思い直し、生命力を強めているとナナシがようやく店から出てきた。高所にいると余計体力を奪われてしまうため、バレるのを覚悟で地上から跡をつけていくことにした。後でナナシに何て言われようと、周りがオレを変な目で見ようと気にしない。ナナシはオレが守らずして誰が守るってんだァ!つーかこんなことオレ以外の誰にも任せるものかァァァアアアァァ!そしてオレはナナシの後をひたひたとついていく。言っておくがストーカーじゃねェぞこれは。



ふむ、残り約1時間か。次はどこに行くのだろうか。周囲に人が多いおかげで意外とバレにくい状況だ。上空からに比べると若干大変だが。ナナシはというと……二人組の男に絡まれていた。奴らの格好がどことなく似ていることから何らかのグループに所属しているのだろう。男たちはナナシと親しげに話していた。それを見て自分の中で一気に怒りの炎が燃え上がる。オレはナナシにバレないよう気をつけながらその付近まで行き、物陰に座り込んで悪魔の実の能力を発動する。すると、男どもはすぐに身体が強張り、がくっと地面に膝をついた。シュロロロ、相手が悪かったな。殺さねェだけでもありがてェと思え。そうほくそえんでいたら頭上にどさっと何かが乗った。



「ん?」
「何やってんのシーザー」
「ナナシ!」



いつの間に自分の後ろに回り込んだのだろうか。シュロロロロロ、さすがオレのナナシだ!オレはナナシをがばっと抱き締める。



「会いたかったぞォォォオオオオォォ」
「朝会ったでしょうが」
「オレァ、寂しくて寂しくて…!」
「たったの3時間じゃん」
「3時間も、だろうがッ!」
「ていうかここで何してたの?」
「…………………………散歩だ」
「こんな人の多いとこで?」
「べ、別にいいじゃねェか!」
「そ、じゃあまた後でね」



軽く手を上げて自分の前から立ち去ろうとするナナシ。オレはその手を慌てて掴む。



「どこ行くんだ!せっかく会ったってのに!」
「だって3時間までまだ少し時間あるでしょ?」
「そ、それはそうだが…!」
「だからまた後で!じゃねっ!」



オレに荷物を預け、歩いていってしまうナナシ。だが、数歩歩いた後に突然立ち止まってこちらを向いた。



「あ、そうだ」
「なんだ?」
「街中で悪魔の実の能力使ったらだめだよ!」
「!!!」



オレは一瞬頭の整理が出来なかった。いつからだ。いつからバレていたんだ一体!?



「ナナシ!」
「うん?」
「やっぱりオレも連れてけェェェエエエェェ!」



いろいろ聞きたいことはあったがとりあえず今はナナシを追いかけることにした。またヘンなヤツに会ったら大変だからな!急いでナナシの横に並び、問い詰める。



「いつから気づいてた?」
「ん?今だけど?」
「なんでわかった」
「だってあんなこと出来るのシーザーくらいでしょ」
「ナナシを変な目で見やがったあいつらが悪い!」
「何が変な目よ、もう」
「オレの目に狂いはない」
「シーザーのほうが変な目してると思うけど」
「………!(泣くものか…!)」
「さっきの人たちは私に道を尋ねてきてたんだよ」
「道?」
「お酒が売ってるお店に行きたかったらしくて、私もそのお店を今朝見つけて知ってたから教えてあげてたんですー」
「…お前は男というモンを分かっちゃいねェよ」
「シーザーを分かってたらいいでしょ?」
「っ………!ナナシーーーーーーーーーーー!!!」
「わっ、こんなとこで抱き着かないでよ…!」
「やっぱりお前は一人で外出禁止だ…!」
「なんでだァァァアアアアアァ」


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