:: You quibble a lot!
宿を借りるのも面倒だし、今日は乗ってきた船で寝よう、と二人で船を降りた場所に戻ってみればすでに船はなかった。まあシーザーのガスによって深い眠りについていた船員たちはずっと船にいたわけだから、起きたら皆が異変に気付いて出港してしまうのは当たり前のことで。結局私たちは町はずれで宿を借りることとなってしまった。なんて行き当たりばったりの旅だろう。
「部屋は別々でいい?」
「だめだ」
「なんで」
「そもそも一室で済むところをあえて二室借りる理由がわからねェ」
「シーザー……」
「あン?」
「一人だとさみしいんでしょ」
「な、そんなわけあるか!オレをバカにすんじゃねェ!」
「なら二部屋借りてもいいよね」
「だめだ!」
シーザーはぷりぷりと怒りながら受付に二人一部屋の旨を伝え、キーを受けとると私をその場に残してさっさと部屋のある方へ行ってしまった。素直じゃないなあ、と思いながら私はその後をついていく。部屋はそこまで豪華ってわけじゃないけど、汚くもなく、船で寝るよりはマシという感じだった。ベッドもちゃんと二つあるし。私が景色を見ようと、窓に近づくと、そこには景色より興味深いものがあった。
「見てシーザー、カップルがキスしてる!」
向かいにあるホテルを指さす。
「シュロロ、覗き見とは趣味が悪ィ」
「趣味が悪いなんてシーザーに言われたくないよ」
「なんでだ!?」
向かいでイチャついている彼らを凝視していると、彼らと目が合った。うわ気まずい、と思っていたら向こうもそう思ったらしく窓際から離れて行ってしまった。なんだろうこのがっかり感。
「さっさと寝るぞ」
ベッドの上でシーザーが大きく欠伸をしている。
「えー、もう?」
「オレは眠い」
「じゃあ先に寝たら?」
「何言ってんだお前は」
ハァ、とわざとらしい大きなため息を吐くシーザー。そしてその態度に無性にイラッとする私。
「一緒に寝るに決まってんだろうが」
「えー」
「シュロ…その文句ありげな顔は何だ」
「だってシーザー歯ぎしりすごいもん」
「そんなにか?」
「うん、いつも夜中に私の部屋まで聞こえてくる」
「なに!本当か!」
「嘘」
シーザーって何でも真に受けるからからかいがいがあって本当に楽しい。私はまだ起きていたい気持ちも強かったが、どうせ起きていても何もすることがないとわかっていたので仕方なく寝ることにした。二つあるベッドの一つに潜り込んで掛布団を顔半分まで引き上げる。そうやって寝る態勢を整えていると隣から大声で怒鳴られた。
「オイィィィ、ナナシ!」
「んあ?」
「オレは一緒に寝るといったハズだ!」
「…だから寝てるでしょ」
「違う!そうじゃねェ!」
「はー?何が違うの、」
「…もっと、オレの側に来い…!」
「…こんくらい?」
「もっとだバカ!」
「…もう動く気失せた」
「バカって言ってスマン!」
ずりずりと掛布団にくるまりながらベッド上で移動をする私。
「…もっとだ」
「もう近いからいいじゃない」
「いや!まだダメだ!」
「同じベッドにいたら一緒に寝てるってことでしょうが」
「そーいう屁理屈は求めてねェんだオレは!」
「はあ?いつも屁理屈をこねてるのはシーザーでしょ!」
「な、オレがいつそんなこと言った!?」
「いつもって言ってるでしょうがっ!」
「シュロロロロロ、いつも、って一体いつのことだかさっぱりわかんねェな」
「そーいうのが屁理屈って言うんじゃー!そしてそのムカつく顔ヤメロ!」
「うるせェッ!とにかくもっとコッチ来いって言ってんだろ!」
「もー動いてあげないもんね!」
「じゃあこっちから行ってやるわァ!」
「ぎゃっ」
一瞬襲われるのかと思った。だけどシーザーは身体をさっきよりもさらに近づけてきただけだった。否、抱きしめられたという方が正しいのかもしれない。とにかく互いの肌の密着具合がすごいことになっている。熱の共有で自らの体温が上昇していくのを感じた。
「あの、シーザー、」
「なんだ」
「………暑い」
「…お前って雰囲気もクソもねェなほんと」
「これがしたかったの?」
「…悪いか」
「ほんと、可愛い」
「シュロ、男にそんなこと言うんじゃねェ」
「テレてるでしょ」
「テレてねェ」
「いやシーザーのことだもん、絶対テレてる」
「………」
「痛い痛い痛い!無言で腕に力入れないで、骨折れるッ」