何時頃からだっただろうか。
朝、新聞受けから朝刊を取って、朝ごはん片手に広げてみれば紙面のどこかに歴史改変だか歴史修正の文字を見かけるようになったのは。新聞だけではない。テレビをつけてもそんな風だから、これは一大事なのだと、ただ毎日のほほんと生きている私でも感じていた。
しかし、私が生きていて、その重大性を感じることはあまりなく、それはひとえに時の政府の方々のおかげなのだけど、その歴史改変を阻止できるのも時の政府の中でも特別な人だけらしいので、ごくごく普通の一般人の私には関係のないことだと、どこか線を引いて蚊帳の外からそれを見ていた。そんなことに関わるなんて、宝くじに当たるくらいの確率だろう。そんな運は持ち合わせていない、大丈夫だと、心の中で謎の確信をしていたのだ。

しかし、空もすっかり暗くなり、街に明かりがついた頃、私はバイト帰りにコンビニに寄って今日一日のご褒美だとアイスを買い、帰路を浮き足立ちながら食べ歩きしていたある日、背筋に悪寒を感じた。周りからやれ鈍感だとか言われていた私だったが、こんなにはっきりとしたものを感じると、流石に冷や汗も垂れる。手に持っているアイスが異様に早く溶けている気がした。
時間的には日も跨いではいないし、そこまで遅くはないはずだけれど、周りを見ると人っ子一人いない、設置されている電灯も心もとない暗い路地だった。普段帰っている道だという過信に加えてアイスに気を取られた自分が馬鹿だったんだ。
いやいや、まだ決まったわけじゃない。まさか私が殺人鬼とかに狙われるなんてことは流石にないだろう。私を狙ったって何の得もありはしない。こんな餓鬼の所持金だってたかが知れている。いやでも、私の後ろから明らかに私じゃない足音はするし、私が早足で歩くとそれに合わせて後ろから聞こえる足音も早くなる。時と時間もあって、私の不安は広がっていく。
しかし、何かあっては遅いと思って、私は小走りになって家まで帰った。幸いなことに、家までそう遠くない。私の住むアパートが見えたところでもうすぐだ!と思った矢先に私の部屋の扉を見ると、そこには知らないスーツを着た人が私を見つめながら立っているのだった。

こうして私は逃げ場を失いもうだめかと思ったら、後ろから肩をとんと叩かれる。そして、「みょうじなまえさんですね?時の政府の者です。少しお時間いただけるでしょうか」と一言言われ、思わず腰を抜かしそうになった。


そう思っていたのももう随分と前のように感じられ、私がこの本丸に住んでいる現状は、歴史改変阻止に関わっているとは思えないほど平和に感じるけれど、未だに私が審神者として存在しているのかが不思議だった。自分の手のひらをじいっと見てみるも、その力を使える者は数少ないと言われる特別な力を持っているとは到底思えない。ただ言われるがままに、時の政府の人に歴史修正主義者に対抗する貴重な人材だと言われて審神者になったまでで、このままじゃ日本が困るだから仕方ないだろうと思っただけだ。
ああ、私は審神者になったにも関わらず、まだ蚊帳の外にいるようだなあとまたぼんやりと思うのであった。

「主ー、帰ったよー!つーかーれーたー」
「ん、おかえり」
「ごめん、ちょっと怪我しちゃった」
「じゃあ、すぐに手入れしようか」
「へへ、ありがと」

そうしていると私の部屋のふすまが勢いよく開かれ、部隊長を務めている清光が入ってくるなり私の膝になだれ込んできた。その綺麗な艶のある髪を撫でてやると猫のように気持ちよさそうにしている。ふと、その顔を見るとかすり傷があり、血が垂れていた。
兎にも角にも、私は歴史が変わるとか変わらないとかは抜きにして、目の前の付喪神を死なせてはならないとだけは心に強く思っている。


まえ つぎ
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