岩融が本丸に来てからにぎやかだった屋敷がより一層にぎやかになった。彼の人柄は勿論、その体もこの本丸内でも1、2番を争うほど大きく、見た目通り底なしに明るい。そんな彼に短刀のちいさい子達はこぞって集まり、彼も彼で面倒見がよく、笑いながらよく遊んでやっていた。最近は仲間も増えてきてその一人一人の個性も強いし、私が全員に目を届かせるのには骨を折っていたので、私としてはすごく助かる。

「おっ、なまえではないか!」
「い、岩融…」
「?なぜ後ずさっている?」

しかし、岩融の面倒見のよさの範囲というものは、短刀達では収まらず、私でさえも入っているのだからいささか驚く。今だって廊下でばったり会うなり、髪をがしがしとかき回される岩融の挨拶をされた。人に頭を撫でられるなんて、最近ではそうされたこともないし、そういうのは短刀の子達みたいな小さい子にやるものであって、もうそんな子供ではない私にやるものではない。これをされるといつも心臓が早く脈打っている感じがするし、本当に参る。
岩融と出会った当初からこんな感じになることが多く、私は彼と顔を合わせると自然と身を遠くに行かせようと体を動かしていた。苦手、なんだろうか。少なくとも、自分のペースを乱されるのはあんまり好きじゃない。

「っでは、私は厨房に参りますので」
「そう急がずともいいではないか」

私の進行方向にいる岩融の隣をすっと通り抜けてしまおうと、すぐに足を踏み出した途端、手を掴まれてしまいそれは叶わなかった。一体何だっていうんだ。振りほどこうにも私と彼の力の差なんて雲泥の差なんだから、もう私はこの場から動くことは出来ない。厨房に行くのは一旦諦めて岩融に体を向けることにした。そうすると、彼はまた笑って私の髪をかき回す。私はそんな岩融の顔をうまく見れなかった。

「岩融は、短刀の子達と庭で遊んでいたのではなかったですか?」
「うむ、先ほどまでは元気に遊んでいたが今は疲れて昼寝している。そこで暇になって部屋にでも戻ろうかとしたら、主に会ったというわけだ」
「そ、そうですか」
「厨房へは今晩の飯作りか?」
「そうですけど」
「それでは、俺も着いていくとしようかな」
「…手伝ってくれるんですか」
「いや、俺は料理などやったことがないからな!俺の作った飯なんぞ食えたものじゃないだろう!」
「じゃあ、どうして?」

すると、岩融が私のもう片方の手も取って自分の手の中に収めた。私の手なんか岩融の手の中にすっぽり被さってしまって、ぎゅうと握られるとその大きさが分かる。もう岩融に捕まってしまったのだから私はどこにも逃げないというのに、まだ手を握っている必要があるのだろうか。私には岩融という人がいまいちよくわからない。でも、また心臓がうるさくてむずがゆい。

「俺は小さいものがすばしっこく動いている様を見るのが好きでなあ」
「はい」
「短刀達と遊んでやるのもそれはそれで楽しいのだが、」
「はい」
「俺は何よりなまえが忙しなく汗を垂らして働いているのを見るのが一等好きだからな」
「はい?」

一段と強く手を強く握られた。
今の一言でなぜか顔がすごく熱くなって、頭がうまく働かない。でも、今の言葉はきっと短刀達に向けて言うのと同じような気持ちで言ったんだろう。きっとそうに違いない。そうでなければ、私はさっきの言葉が私の頭をぐるぐると回って立ってられないような気がした。なんだかすごく気恥ずかしくなって目をぎゅっと瞑ってしまう。

「好きなんだから、構わないだろう?」
「…後ろで見ているだけでしたら別に構いませんけど」
「そうかそうか!では、遠慮なく見物させてもらおう!」
(まったく、この人には調子が狂わされてばかりだ)

岩融は気分がいいのか私の手を引いて厨房へと向かうが、私なんて見て何が楽しいんだか。厨房に着いてからは本当に大人しく後ろで見ていたんだから、少し拍子抜けしたけど私は終始落ち着かず今日の晩御飯の量が普段よりも多めになってしまったのもそのせいだ。
それからというもの、岩融が私と顔を合わせるなり着いてくるから、私の心臓が持ちそうにない。



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