「みどーすじくん」
はっきり言ってキモいと言われて傷つかないわけじゃなかった。でも、それは最初だけの話でだんだんとその言葉にある意味を考えたら、心からそう言っているわけじゃないような気がして。一種の口癖みたいな。彼がそう言うときのちょっとした表情とか、そんなのを見ていたらそこまで気にするようなことでもないような気がしてきた。たまに本気でキモいって言ってることもあるけど。いや、たまにでもないか。
「前の席お邪魔しまーす」
「チッ、また来たんかお前」
「お前じゃなくてみょうじ」
「そんなんどうでもええわ」
「よくない。みょうじだからよろしく」
「…ほんまみょうじてキモいな」
「はいはい、ちょっと机の上、スペース開けてねー」
机の上に広げていた御堂筋くんのお弁当を少し押して私のお弁当を置くスペースを作る。それに御堂筋くんは心底嫌そうな顔をしていたけど黙って何もしてこないところどうだか。
「いただきます」
「ええ加減僕もツッコミ疲れてきたわ」
「それはいいことだ」
「調子に乗んな阿呆」
「はいはい」
「というか、女子のとこ行けばええやん。なんでわざわざ僕の所で食べるん」
「だってさあ、新学期始まって間もないならまだいいけど、もう後期だよ?女の子はとっくにグループ作ってかたまっちゃってる。私の入る余地ないよね」
「せやから僕の所来たんか?その発想がキモい」
「だって女の子の所行くより御堂筋くんの方が落ち着きそうだったし」
「ピギッ!?」
「まあ、お昼御飯だけでも付き合ってあげてよ」
「…女子にも混ぜてもらえへんみょうじが哀れやしな」
まあ、混ぜてもらえるっちゃもらえるけど、集団意識が高いのか私がそこに入ってもなんとなく疎外感を感じるし、根気強くいけば仲良くなれるんだろうなとも思うけど私にその元気もない。だいたい転校生の私は周りと訛りも違って明らかに異質なわけで。はじめの頃はとにかく構われたものだが、特に容姿が良いわけでもないし今の私の周りはいたって静かだ。
とにもかくにも、半年もしないうちにクラスは変わるんだし輪の中に無理に入り込まなくてもいいかと思い始めてきた頃に、御堂筋くんが目についたのである。静かそうで、あんまり物に執着しそうにないから女の子に合わせて愛想笑いしてるよりかはいいかなって。こんな第一印象で失礼だけど、思いのほか話しかければ毒舌で返ってくるし。
「ありがとう!御堂筋くんだいすき!」
「ハ、ハァ?いきなり何言うてんキモ!キモいで!」
「下手に女の子と話すより数倍落ち着くよ、本当に」
「…それ褒めとんのか」
「すごく」
「僕は口下手で馴染めへんみょうじが哀れすぎて見てられへんから仕方なく構っとるだけやし、お昼の時だけやし、僕もたまたま暇しとるからやで?そのこと分かっとるの」
「うん、ありがとうね」
私が素直に気持ちを伝えると恥ずかしそうに顔を背けて言う毒舌の意味くらい私には分かるよ。私の思い込みかもしれないけど、それがくすぐったくてたまらないんだ。
「きょ、今日はその卵焼きで勘弁したる」
「私のお母さんの卵焼きは甘いよ?」
「…ほんまやな、甘すぎや」
「でしょ?出汁巻より私はこっちの方が好きだな」
「…………」
「?甘すぎた?」
「ちゃうからな」
「なにが?」
「僕は、好きでお前と一緒にいるわけ、ちゃうからな」
「ああもう…、わかってるよ」
もどる