何に対しても初めてのことで俺は何をしていいかも分からない。
ついこの間、不本意な形ではあったがめでたくみょうじさんと付き合うことになって、その晩は興奮気味で眠れなかった。もし寝て目が覚めて学校に行ったら何事もなかったかのようにみょうじさんが挨拶してくるのではないかと思ったからだ。いや、実際学校行ったらそんな感じだったけど。しかし、それが夢ではないと分かったのは翌日の朝、携帯のアラームを止める時に東堂の次にみょうじさんからメールが着ていたおかげだ。『起きてる?』と、その一言だけだったが寝ぼけている俺を飛び上がらせるには十分だった。
けど、学校では今まで通り普通に話してるし、放課後は俺が部活だから帰りが一緒になることもない。人と付き合うなんて俺にとっては初めてのことだから、やさしい言葉を掛けてやるべきなのかとか彼氏らしくどうやって接していいかも分からなかった。つか、元々そういうの苦手すぎてわかんねェ。そんなんだから付き合っている感覚は正直湧かなかった。

そんな中でやっと部活も休みになって、これは何かするしかないと思い立ち、ここはデートでも行くかとは思ったが何処に連れて行っていいかも分からないとなると、早速詰んだ。


「えっ、部活お休みなの?」

「あァ、みょうじさんの行きたいところとか、行くか?」

「めずらしいねえ…で、でも、私の行きたいところとかなんだか悪いよ!私なんかいつでも好きなとこ行けるわけだし!巻島くんはどこか行きたいところとかないの?ほら、折角のお休みなんだよ!」

「ない」

「えー…」

そうなるとみょうじさんに聞いた方が早いと思って、夜に電話で聞いていた。耳に直接入ってくる声がくすぐったかった。
別に俺はみょうじさんと一緒にいれればそれでいいと思っているから、どこに行ってもかまわないっショ。ただでさえ一緒にいる時間が短いわけだし。

「んー…部活とか毎日あって巻島くん疲れてるでしょ?遠出するのもなんだよね」

「だから、そういうことは気にしなくていいっショ…みょうじさんの行きたいとこなら別に文句も言わねえし」

「んん、でも」

「ま、ゆっくり考える、ショ」

「あっ!」


と、急に何か思いついたように声を出したみょうじさんが行きたいところとは、俺の部屋だった。つまりはお家デートというやつ。
初めてのデートが俺ん家とかハードル高すぎるだろ…、と心の中で思ったものの、下手に遠出でもして変な空気になるのもあれだったし、何しろ知り合いに会ったりでもしたら嫌だったのでこれはこれでいいかと思った。

そして待ちに待った日曜日になって、みょうじさんを迎えに行って俺ん家で無難に映画を2、3本借りてきて見ることになったわけだが、私服のみょうじさんが俺の部屋にいてしかも肩が触れていると思うだけで映画になんか集中出来ない。最初から心臓がばくばくだ。みょうじさんはみょうじさんで何も意識せずに普通に俺の隣に座るし、ほんと、そういうの困るっショ。無意識が一番怖い。

(失敗だったかもな)

やっぱり最初からこれは俺の許容範囲的にきつかったと思いかけた頃、肩に重みを感じた。立て続けに2本見たせいか、ふと横を見ると俺の肩にみょうじさんは頭をのせて眠ってしまっていた。

「はァ…」

これは襲ってもいいってことなのか?みょうじさんは本当にうとうとして寝落ちしただけなんだろうけど、無意識にも程があるっショ…。気持ちよさそうに眠っているみょうじさんの寝顔を見てつばを飲み込み、とりあえず流れ続けている映画を止めた。

「なあ、みょうじさーん」

「……すう」

「…なまえ」

「…………」

「くそ、気持ちよさそうに寝やがって…ちっとは俺のことも考えろ」

「ん、……」

「…起きなかったら、なにするか分かんないっショ」

今、ここには俺とみょうじさんの二人だけだ。丁度良く親は外出中で、家にはいない。学校と違ってがやがやと騒がしくないし周りの目線もない。ずっと触れてみたかったみょうじさんが本当にすぐ隣にいる。

もちろん止める人もいない。

「やわらけェな」

もう、ここで何をされてもみょうじさんは文句言えないだろう。試しに俺は、起こさないようにそっとみょうじさんの頬を突いてみた。男の俺の頬とは違ってやわらかいし、すべすべしている。みょうじさんはもうそれはぐっすり眠っていて起きる気配はない。起きるなら今のうちっショ。寝落ちするくらい気を許してくれてるのはうれしいが、ここまで無防備すぎるのもどうかと思う。次に俺はみょうじさんの唇に自然と目がいって思わず喉が鳴る。

「…起きないのが悪いっショ」

ここでドラマだったら、みょうじさんが起きるというお決まりの展開が起きるだろう。けど、もはやそんな展開になってもどうでも良く感じた。みょうじさんのまつげがふれるくらいの距離まで詰めて、唇を寄せる。本当に軽く触れる程度で、一瞬だった。ちゅっと触れて、すぐに離れても起きはしなかった。すると、俺の心の中ではもう一回してもバレないんじゃないかという邪心が芽生えてくる。ああ、困る。

「んー、巻島くん…」

「っ…!?」

「……ん、」

「…寝言?っはー…びっくりさせるなヨ…」

指で自分の口元を撫でると、まだ感触が残っていた。
もう一回してやろうかと考えていたが、みょうじさんが寝言で俺を呼んだだけでひやひやした俺はもうこの一回で疲れてしまった。肩にのせられているみょうじさんの頭にもたれかかるようにして俺も眠りに落ちてしまった。

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