さっきから忙しなく目線は動いていて、ときどきぶつかる私の手を握ろうとしてはそれが出来ずにポケットに手を突っ込んでは出しての繰り返し。それを私が気づいてないとで思っているのだろうか。いや、思っているんだろうな。こんな風になるなんて相当焦っているのだとしか思えない。そう思うと、普段の威勢のいい靖友とは大違いでなんだか笑えた。

「ど、どっか行きたい場所とかないのォ?」

「うーん、そうだな…」

ちらっと靖友を見やる。
本当は特段ここに行きたい!っていうほどの場所はなくて靖友と一緒にいれればそれでいい、なんて思っていたけどこの様子じゃあそう素直に言ってしまうと困ってしまうんだろうなと思う。とりあえず、どこか行きたい場所がないか考えてみると結構歩いているし、甘いものでも食べたいと思った。

「なんか甘いものでも食べない?」

「甘いものネ。じゃあ、あそこのクレープ屋でも行くかァ?」

「あれ、いいの?」

「何言ってんだ、なまえチャンが甘いもの食べたいって言い出したんだろうが」

そういうことじゃなくて。
てっきり、私が甘いものが食べたいなんて言ったら「甘いもの?太るけどいいのォ?」くらい普段なら言われそうだと思ったけど一向に靖友の口からはそんな言葉は出てこなくて、ぽかんとしていたら靖友が先に歩き出していて急いでその後を追いかけた。

なんか変。いつもの靖友じゃない。けど、そんな彼がとても愛おしいと思った。やれボケナスだの、ブスだのと言わず、妙に優しい。それは彼なりにも緊張してくれているんだとしたら、すごく嬉しいことだ。思わず私の顔も緩んでしまって、「デート楽しいね」と靖友に言うと「そうだネ」と言って顔を逸らされてしまった。

「…俺が払うから、財布しまえ」

「えっ、いいの?」

「…こんくらい普通だろ」

「ふふっありがと」

「ドウイタシマシテ」

けど、靖友も初デートで緊張してしまっていつもの彼じゃないから口数も少ない。いつもだったら口は悪いけど何かと話は続いていたんだけど…。でもきっと今の彼の頭の中は次にどうしようかということでフル回転しているんだろう。普通だったら私もそんな風になっているんだろうなあと思うけど、こうやって冷静に物を考えられているのも靖友を見ているせいだろう。だから、次どうしよう何話そうなんてどうでもいいくらい今楽しいと思っている。

「靖友にクレープとか似合わないね」

「うっせ」

「そういえば今日一回もボケナスって言われてないなあ」

「っは、そんなに言ってほしかったのォ?」

「だって、なんかいつもの靖友じゃない」

「っ、そうかよ」

「うん、変な感じー」

「…お前もちっとは緊張しろよ」

「やっぱり緊張してたんだ?」

「…んだよ。文句あんのか」

「ううん。なんかかわいいと思って」

何も私なんかに気を張らなくったっていいのに。

「はあ……あーこんな奴に緊張とかマジなかったわ」

「うん?」

「この後自転車屋行くぞ。付き合え」

「うん!」

でも、やっぱり口は悪いけど引っ張ってくれるような靖友が私は好きだ。糸が切れたみたいにさっきまでの緊張感はなくなって、持っているクレープを大きな口で食べ終えてしまっていた。

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