小学校の時も、中学校の時も、この日はいつもそうだ。学校中が色めいて女子も男子もそわそわしだす。高校になってから色々と自由度が増してきたおかげで特に学校中が落ち着かなかった。そんな2月14日を俺は一線引いた蚊帳の外でいつも見ていたもんだったが、今年ばかりはその一員になっていた。関係ないと思っていたのは去年までの話。
今年のバレンタインデーは学校に入った瞬間、いや朝起きた時から落ち着かなかった。これがいつも見ていた奴らの状態だったのかと思うと随分ご苦労なことっショ。まあ、俺は貰えるか貰えないかと言えば貰えることになると思うし、不安とかはない。けど、どんな風に渡されるかと考えると浮足立っていた。授業中にあいつの後姿を見ていてまだかまだかと思っちまうんだ。


「はい、どうぞ」

「ハァ…遅すぎっショ」

「な、なに!折角あげたのになんだねその言いぐさは!」

「いや、…なんか貰えなかったらどうしようって思った」

結局貰えたのは部活が終わってから図書室で待っていたあいつを迎えに行った時で、日も随分と傾いていた。昼休みに人前でチョコを渡す奴らを横目に見ながらこいつと飯食っていて何にも言わないなんて、もしかして俺なんて見放されたかと思うくらいだった。貰える貰えると思って不安なんてないと思っていたからに予想以上に堪えた。

「そんなわけないよ」

「俺もそう思ってたけど…不安なもんは仕方ねえんだよ」

「だって、人前で渡すの恥ずかしいし…」

「だからってもう日も終わりかけっショ。出し惜しみもいい加減にしろよなァ」

額を軽く小突いてやった。

「私、結構巻島くんのこと好きだよ?だから、渡さないとかはあり得ない、と思うんだ」

「クハッ、結構ってなんショ、結構って」

けど、今まで初めての本命のチョコを貰ってしかもそれが一番好きな人からのもので素直に嬉しかった。どこかで買ってきたような高そうなものでもなくちゃんと手作りで作ってくれたんだ。かわいくラッピングされたそれが開けて食べてしまうのには勿体ないくらいに。
この日までにどんなものを作ろうか悩んでいた節はあったから(甘いのは好きかとか、和菓子と洋菓子どっちが好きかとか)それを考えると頬が緩む。

「俺は、…愛してるけどな」

「え?今なんて言った?もう一回!」

「何回も言わせんヨ」

「いや、なんか巻島くんらしくない台詞が聞こえたような…」

「思ってること、素直に言っただけっショ」

「…なんか、普段聞けないからうれしいな」

もうこれはバレンタインだからってことにしておこう。そうだ、俺だって浮かれている。

「なァ、そろそろ付き合って一年くらい経つ、し?コレ、貰ったお礼にキスくらいしてもいいか…?」

そう言うと目をまるくして俺の恋人は嬉しそうに頷いた。




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