ご飯も食べ終わって、お風呂をに入る前に携帯を開く。ただのホーム画面だ。それを見てわかっていたことなのに私は少し落ち込んだ。
昨日も練習、今日も練習で一緒にどこかに出かけるなんてことは出来ないんだ。ましてや尽八は寮生だし、門限がある。適当にテレビのクリスマス特番を見て、ケーキは家族と食べてしまった。こんなのいつもと何も変わらない。
けど、それは尽八と付き合ってから覚悟していたことで、今日じゃなくても普段デートなんてするなんてことはそう出来ないし2人の時間も多くない。それが耐えられなくて別れた子なんて大勢いるんだ。私はそうはなりたくないし、仕方ないことだと思って初めから付き合っている。でも今、なんの着信もお知らせもない携帯を見て肩を落とす自分がいる。結局のところ、私は他の女の子達と何も変わらないんだと思った。
どうせ連絡するとしても、私じゃなくても巻ちゃんでしょ。巻ちゃん大好きだもんね。尽八のばーかばーか。もう知らない。お風呂なんて明日でいい。冬休みだから明日も休みだし今日はもう寝てやる。
もう一度口で携帯に向かって馬鹿と言ってからほおり投げて、私は布団に飛び込みもう何も考えたくなくてすぐに意識を手放した。




「ん、んぅ……だれ?」

「なあ」

「ん…ん?」

「まだ寝るのには早いんじゃないか?」

最初はしまった、マナーモードにするのを忘れていたと思った。もう何も考えたくなくて早々に寝たというのに、アラームが鳴ってちょっとだけ不機嫌だった。でも、うるさいアラームを止めてすぐにまた寝ればいいと思っていた。しかし、ほおり投げた携帯を探し出し、寝ぼけ眼でボタンを押すと音は止まったがそこからは声が聞こえてきた。それは私をどうしても寝かせてくれなかったんだ。目を擦って、ホーム画面を見ると、東堂尽八という文字が確かに表示されていた。信じられなかった。時間はもう少しで12時になる。

「外に出てこられるか?」

この画面から私のなまえを呼んでいる。
やっと目も冴えてきた私は急いでパジャマから着替えた。いつも尽八の前ではおしゃれでいなくてはならないと思っていたが、今はそんなこと言っている場合じゃない。クローゼットの中から服を引っ張り出して、髪を手で整えて、どたどたと音を立てながら玄関を出た。

「っ、尽八?」

「おう」

「なんで、ここに」

「ワッハッハ!めずらしいものが見れたな。そんなに急ぐ必要はなかったのに」

尽八の手が頭にのせられて髪をほぐしてくれた。そりゃあついさっきまで寝てたからぼさぼさだろうけど、それを尽八に見られるとなると恥ずかしくなってきた。足元を見ると靴が片方ずつ違っていた。

「すまんね、遅くなって」

「…もうなんにもないかと思った」

「すまん」

門限過ぎてるのにどうしているのだとか、いろいろ言いたかったけどやめた。理由がどうであれ、ここまで来てくれたのが純粋にうれしかった。髪をほぐしていた手は自然と頭を撫でてくれていた。

「泣いているのか?」

「っもう深夜だよ、ばか…」

「…そうだな」

「もう、来ないと思った」

「そんなわけないだろう」

「…………」

別にクリスマスだからって期待なんかしてなかったのに。それなのにうれしくて涙まで出てきた。尽八の顔なんか見られなくて俯いていたら両頬を抑えて顔を上げさせられた。

「俺を見てくれ」

「……ひっく」

「俺はお前のことがちゃんと好きなのだよ」

「っ……うん」

私も他の女の子と同じだと思って尽八に期待しないで、どこかで半場諦めていた。そう言うことを言っているんだろう。

「おっと、もう時間が過ぎていたな」

「?」

「メリークリスマス」

散歩でもしようと行って私の手を取って歩きはじめる。
綺麗なイルミネーションもケーキもないけど、私達を照らすオレンジ色の電灯で十分だった。




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