さくさくさくさく

(もう、むり)

記念日とかはめんどくせェとか言ってあんまり気にしないくせに、こういう行事だけは面白がってやるのは反則だと思うんだ。荒北が部活おわるまで待って、やっと来たかと思ったら片手にはポッキー。顔を見たらにやにやいかにも何か企んでそうな顔でこっちにち被いてくるから、反射でつい後ずさりしてしまった。当然、通称野獣アラキタくんからは逃げられず、口にポッキーを突っ込まれる羽目になったついさっき。私って可哀相と思いながら、これでポッキーゲームは何回目になるんだろうか。最初の1本目から今まで全部私が途中で折ってしまった。だって、あとどれくらいかなって目を開けたらまつげが届きそうなくらい、荒北が近いんだ。しょうがないと思う。

ぽきっ

「……おい」

「……ごめんなさい」

「何回目だと思ってんのォ?」

「に、20本くらいかなあ」

「20本くらいかなあ…、じゃねえんだヨ!何回途中で折ったら気が済むんだよお前は!」

「本当に申し訳ないです…はい」

「ったく、次でラストだからァ、絶対に折ったりすんじゃねえぞ」

「努力はする…」

「ほら口開けろ」

ポッキーの袋から最後の一本が取り出されて、私の口にまた突っ込まれる。そして、私がたじろいでしまう前に荒北がまた反対側をくわえてポッキーゲームスタート。心の中でため息をついた。私だって最後までがんばりたいという気持ちはある。でもきっと、この最後の一本もだめになるんだろうなあって、心の中で確信してるんだ。普通のキスだって、まだ全然慣れてないのに、こんなの絶対無理だと思う。荒北の顔が近くにあるって考えるだけで、顔が熱くなって目を逸らしたくなる。

さくさくさく

(う、わ、…あと、もうちょっと、あと一口くらいかな、あ、やっぱもう無理)

ちゅ

「え」

「よくできましたァ」

「っ、あらきた、ちょっ」

「これ、今まで失敗してきた分ネ」

「っん、多いってば!っちょっと」

「うめェな」

最後の一口だと私が思った瞬間に、荒北ががぶっと一口を大きくして唇まで届く。驚いて目を開けたら、0距離で荒北が満足そうに目を細めていた。こんなに至近距離で目を合わすのも恥ずかしくて、すぐに離れようとしても頭を抑えられていてもうだめだ。ああ、チョコの味がする。




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