「東堂くん!」

今年も無事に元旦を迎え、俺は今初詣に来ていた。
しかし、いつも正月と違うのはやはりみょうじさんのおかげで、旅館の手伝いもないし一人テレビの前でカウントダウンをしているわけでもなかった。なにかと今年、いや、去年はみょうじさんのおかげで随分と楽で楽しい年末になったと思う。今だって、お正月の深夜特番で除夜の鐘が映っていたので二人で声を合わせて「初詣でも行くか」ということになって近くの神社に来ていた。みょうじさんと以心伝心になってきたようにも感じる。
しかし俺も元旦に初詣に来るのは初めてのことで、いつもはもうちょっと経って少し空いた頃に新開や荒北達と行っていたのでこんな人ごみの中に飛び込むのにはたじろいでしまった。折角来たのに引き返すわけにもいかず、みょうじさんと二人その長蛇の列に並んだがいつまで経っても進んでいるのかいないのか分からないままの状態が続いている。周りの景色がもはや人になっていて、これははぐれたら大変だと思った。みょうじさんは小柄であるし、探すのも一苦労だろう。手でもつないだ方がいいのかと俺は思った。

「フラれちゃったわね…」

いざ、みょうじさんの手を握ろうとした時に先日お袋が俺に言った言葉が頭をよぎった。そうしたら、なんだか変に意識してしまって伸ばした手を上着のポケットに引っ込めた。
別に俺は特段みょうじさんのことを思っているわけでもないし、これからどうしたいという気もない。ただあんな風に言われてしまってから、みょうじさんの俺を男として見ていない感じがどうにも傷つくようになってしまっていけない。こんなに女の子と接する機会もそうそうないことなので仕方のないことかもしれんが、普段の俺の取り巻きとは真逆の彼女に戸惑っているだけなのだ、俺は。
とりあえずまあ、お袋の言うことは無視してこれからも良き友人でいたいものだと一人思い始めた時、ふと横を見た瞬間にさっきまで隣にいたはずのみょうじさんの姿がないことに気が付いた。

「まずい、まずいぞ」

一気に冷や汗が流れる。俺が考え事をしているうちにみょうじさんとはぐれてしまった。あたりを見渡してもそこまで見渡せるわけでもないし、かといって歩き回って探すのは無理そうだ。すぐに携帯を取り出して、連絡を取ろうとしたが俺は重大な問題に気が付いた。

「連絡先くらい聞いておけばよかった…!」

みょうじさんと関わったのも冬休みに入ってからだったので、連絡先を聞いていなかったのだ。俺としたことが、この状況になることくらい想像できただろうに、情けない。でもまあ、背の小さいみょうじさんのことなので、この人ごみに飲まれていく姿がちょっと想像できて面白かった。
携帯で連絡を取ることも叶わず、一人列に並ぶことになった俺だが、みょうじさんも最悪いつかは旅館の方に戻ってくるだろう。視界の端に神社の屋根が入り込んできたので、もうすぐこの列も終わるはずだ。

「見つけた!」

しかし突然腕を引かれ、なんだと思ったらみょうじさんだったのである。

「、みょうじさん?」

「よかったー!見つかって」

「みょうじさんも、よく見つけてくれたな…驚いたぞ」

「人に流されてはじき出されたところがここでね、ほら」

みょうじさんは手に持っていた紙コップを俺に差し出す。湯気が立っていて少し甘い匂いがした。飲むように勧めてくるので、有難く一口いただく。

「ん、甘酒か?」

「そう!東堂くん見つけるまで寒いから飲んでたんだ」

「そうか…ありがとうな」

すると、寒さのせいか鼻頭と頬を真っ赤にしながらみょうじさんは笑う。そして自然とみょうじさんが手を握っていたのに俺も少し顔を熱くした。細かいことを気にして彼女とはぐれてしまった俺は反省しながら、俺もみょうじさんに手を引かれて甘酒をすすったのである。


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