今まで目を向けていなかっただけだが、みょうじさんがこれほどまでにてきぱきと動く人で、しっかりとしている人だとは思わなかった。俺は旅館の息子といえども大分ブランクがあるし、仕事の内容も時々刻々と変化しているので俺より先に来て働いていたみょうじさんは俺を指示するような立場になっていた。見た目はおっとりとしているように見えるが、案外声も出るし汗を垂らしながらきびきび動いているところを見かけると思わず手を止めて見入ってしまった。みょうじさんはいつもおとなしく窓際で外を眺めているイメージだったので、人は分からないものだなと心底思う。

「みょうじさん、おつかれ」

「うん、東堂くんも」

今日も一日終わってやっとの夕食。今日はお互いの仕事が終わる時間が一緒だったので夕食も同じ席につくことになった。俺たちは高校生なので、一応法律上夜間に働くことは許されていない。他の従業員は皆高校生以上なので夕飯は二人きりだった。

「あーごはんおいしい…」

「だろう?俺の家で誇っている一つでもある」

「ここが東堂くんの家だってこと自体誇っていいと思うよ…」

糸が切れたようにぐったりとして疲れた様子のみょうじさんは昼間ようなの覇気はなく、やっと見た目通りのおっとりとした感じだった。しかし、一度話してみればどんどんと言葉は繋がるし、案外付き合いやすい性格をしているんだなと思う。

「東堂くん?どうしたの?」

「む?」

「さっきから箸止まってるけど…」

「あ、ああ…なんでもない」

「東堂くんもやっぱり疲れてる?私も大分慣れたけど結構ハードだよね」

「いや、まあ、疲れてはいるが、…ただ」

「ただ?」

「実家でこうやって誰かとご飯を食べるのも久々だと思ってな」

高校に上がって、寮に入ってからは思うこともなかったが、ふと、こんな風に実家で誰かと話しながらご飯を食べることなんていつぶりだろうと思った。
俺がそう言うとみょうじさんは目を丸くして、そして気恥ずかしそうに目を逸らした。

「いやあ!やはり人と一緒に飯を食べるのはいいものだな!」

「そ、そっか」

「みょうじさんと一緒にご飯を食べれて俺は楽しいぞ」

「ええ…ただごはん食べてるだけだよ…」

いつも一人で食べるのが普通だったから慣れてしまっていた。一人で風呂に入り、歯磨きをして布団に入るのが普通だったんだ。だから、みょうじさんとご飯を食べれて俺は素直に嬉しかった。

「ん、そういえばみょうじさん髪が濡れているが先に風呂でも入ってきたのか?」

「あっうん、終わったのがちょっと早かったからお先にお風呂いただきました」

「ちゃんと乾かさなければならんだろう」

「自然乾燥で十分」

「なっ、いかんぞ!髪が傷む!これを食べ終わったら乾かしてあげよう!」

「えっいいよ別に!」

「なに、俺には姉がいるからそういうのは慣れている」

「そういうことじゃなくて!」


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