私の頭2つ分くらいは背が高くて、目はぎょろっとしてて、自転車に乗っているのに色が白くて、開く口からは皮肉交じりの言葉ばかり。そんな彼を一番最初に見た時は、怖いとしか感じなかったけれど、今ではだんだんと御堂筋くんのことがわかってきてそんなことは微塵も思わなくなってきた。

そんな彼と肩を並べて現在進行形で歩いているわけだが、校門を出てから私達は一言も話していない。帰りのホームルームが終わり、今日は雨だなあと教室の窓から見て、御堂筋くんが来るのを待って、「帰るで」と一言言われただけで、その後はただしんしんと雨が降る中で一つの傘の下を歩いているだけ。こんななのに友達には私と御堂筋くんが一緒に歩いているところを見られると、「あの御堂筋と付き合っているの!?」なんてよく言われるが、実際付き合っているというのにこんな風にいつも私達は大して話さないし、それに『あの御堂筋』とは随分失礼なものである。たしかに恋人らしいとは言えないかもしれないけど、こうやって雨の日には一緒に帰ってくれるし、今日みたいに私の傘が取られた日には「なまえがとろいから傘取られんねん」と言いつつも傘に入れてくれる。見上げてみると、御堂筋くんの肩が少し雨に当たっていた。まだ周りの人から見た目で怖がられる御堂筋くんは部活以外では一人で行動することが多い。けど、一歩近づいて見ればなんてことはないのに、なんで彼が周りから遠ざけられるのか、私にはよくわからない。


(手冷えてるな)

「…………」


今だって顔は逸らされているけれども、手をぎゅっと握ってくれている。私の手なんか、この骨ばっていて大きい手にはすっぽり入ってしまった。何も言わずに手を握ってくるところが私はかわいいなあと思うし、私がついにやけてしまうとキモッと言うところがまたかわいい。

御堂筋くんは基本自転車一筋だから、雨の日以外はこうやって私と歩くことは滅多にないし話すこともない。メールも電話もほとんどしない。でも、私はこの距離感が好きだ。というより、毎日じゃなくたまに隣を歩くから、うきうきとした気分になれて好きなのかもしれない。言葉がない分、彼が今どんなこと考えてるかといろいろと思考がめぐらされて、それを想像すると楽しくなってくるし、この時間がゆっくりと流れる感じがいいんだ。付き合いたての頃は間を空けないように御堂筋くんに何かしら話そうと頑張ったけど、時が経つごとにそんなのは余計だったと気づくようになって今はこんな感じだ。


「じゃ、またね」

「……またな」


今日もまた本当にほとんど会話がないまま私の家の前まで到着してしまって、御堂筋くんとの時間も終わる。次に雨が降るのはいつだったか天気予報を確認しなくては。
ここまで握ってくれた手も離れていく。それが寂しいとは感じるけど、手をつないでくれただけだったとつまらないなんて全然感じなかった。それは御堂筋くんも同じなんだろう。そうじゃなかったら、私達は付き合ってないし私の家までわざわざ送ってくれるはずがない。
名残惜しいなあと感じて家の鍵を取り出すと、まるで待ってと言っているように声もなく後ろからにょっと手が伸びてきた。こういうところは少しびっくりする。


「びっくり、した」

「……あんな」

「う、うん」

「御堂筋くんって言うのやめや」

「うん?」

「……いい加減名前呼べ言うとんねん阿呆」


相変わらず目を合わせてくれないのは照れ隠しなんだろうか。私は思わず目を見開いてしまって、何を言い出すのかと思えば、ああ、なんか本当にくすぐったい。学校からここまで彼は何を考えていたと思えば、名前で呼んでほしいということだけを今までずっと考えてきたのか。これだけ時間があって、たったそれだけ。そう思ったらなんだか笑えてきてしまった。


「ははっ、そんなこと」

「ハァ?キモっ、なに笑ってん、そこ笑うとこちゃうやろ。ほんまキモい」

「うん、ごめん。ごめんね」

「……なまえ」

「翔くん、なんかうれしくて」


言葉に出すと素直じゃなくなるのに、言葉がないとこんなに素直になるなんて思わなかったよ。
もう一回名前を呼ぶと、若干顔が赤くなった気がした。それを本人も気づいたのか何も言わずにそのまま背を向けて帰っていった。その後ろ姿が満足気に見えるのは私の自惚れなのだろうか。



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