俺は部活があるから、放課後はいつも自宅通学のなまえを校門前まで見送ってって、それから部室に向かう。けどこの時、毎回どことなくさびしそうな目で俺を見ているのを知っていた。
「や、やすともくん?」
「なんだヨ」
「こっここ外だから、」
俺の勝手な憶測だけど、そんな顔を見せられたらまだ俺と一緒にいたいって言ってるようなもんだろうが。なまえはいい子チャンだから、そういうことをなかなか言い出せないタイプなのはよく知ってる。最近はレースの日にちも近くなってきて練習も多めで、構ってやる時間もめっきり減ってきてるし、そんな時に我儘も言えたもんじゃねえんだろうな。俺の邪魔になったら嫌だ、みたいな?俺のこと考えてくれるのはうれしいけど、俺としてはこんな時だからこそ我儘言ってくれたらうれしいんだけどォ。
なかなかなまえが我儘言わないもんだから、俺に背を向けて帰ろうとするなまえの手を引っ張って俺の方に寄せると、バランスを崩して俺の胸にもたれかかってきた。相変わらず小さえなと思うのは、最近まともになまえに触れてなかったからだろう。驚いた顔に口づけてやるとおもしろいくらいに顔が真っ赤になっていく。
「っや、ちょっと、」
「最近めっきりだったからな」
「ほんと、人に見られるし!」
「…ふーん、人に見られなかったらいいのォ?」
まんざらでもねェ顔してやだやだなんて言ってんじゃねえよ。逃げようとする腰を引き寄せて、やわらかい唇を噛んでみたり目尻や頬にキスしてみると、すぐに目がとろけそうになっている。なあ、その瞳の奥に何を思ってる。
たしかにここじゃ人目につくし、まだなまえも懲りないみたいなので校門前の道からは死角になっている木の木陰に引きずるようにして連れ込んだ。
「そういうことじゃなくて!んんっ」
「っせえな」
「部活もっあるでしょ」
「ちょっとぐらい遅れてもいいんだよ」
「はあっ…やすとも、くん」
エロい顔しやがって。この顔は脅威的だ。
そんなに早く帰りたいなら突き飛ばして走り去ればいいだけの話なのに、俺の服掴んじゃってんの分かってる?たぶん無意識なんだろうけど、心の中で俺と同じことを思ってるはずだ。だから、俺は一旦止まって首筋に顔を埋めて動かないでやった。
「っふえ?」
「あーあ、部活めんどくせェ」
「あ、あの?」
「なに」
案の定目を固くつぶって俺からキスをされるのを待ってる。そこが気に入らねェ。別に俺は怒らないから、したいんならなまえからすればいいのにと毎回そう思っていた。
「そんなにもの欲しそうな顔しちゃってどうしたのォ?」
「べ、別に」
「(んなわけねェくせに)そ?ならいいけど」
首筋に鼻を擦り当てて、耳元でそう言ってやればびくびくと体を震えさせて、口をつけてわざとらしく、ちゅっと音を立ててやるとたまらないといった表情をしている。自然と後ずさりしてるけど、絶対に逃がさないからァ。
けど、だんだんとどうやっても力的に俺が離れないのが分かってきたらしく、俺を押し返そうとする腕の力は弱まってきた。やっとどうすればいいか考え始めたころだ。
「みみ、っやだ」
(もう少し)
「っん、やすともくん」
「どうかしたァ?」
「耳じゃ、なくて」
「じゃ、どこがいいんだ」
「口がいい、です…」
「どうするかな」
「…いじわる」
「……っハ、わかったヨ」
焦らしに焦らしてやっとなまえから出てきた言葉が、うれしくてすぐに唇に食らいつく。舌を絡ませて、頭の後ろに手を回して息もつかせない。
「ん、なまえ」
「、っはあ…ん」
「これで、満足?」
「…やすともくん、もっと」
「はいはい」
俺はこれが聞きたかったんだ。
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