『寿一 さ』

一瞬何が何だか分かららなかったが、これは一瞬だけの話ではなかった。寮の自室に戻り一人考えてみても、やはりどういうことだか分からなかった。
いや、メールの送信ミスだということは分かるのだが、この文章の先に何を書こうとしていたのかが気になるのだ。そして、間違えて送ってしまったのにもかかわらず訂正するメールも来ないということが気になる。もしかしたらこれを書いている最中に事故にあったのではないかとも思ったが、それはあまりにも可能性が低いことだ。しかし、一度そう考えてしまえば有り得なくもない話で、どんどんとなまえのことが心配になってくる。今はもう夜でなまえも寝ている時間であったので電話はかけられないが、明日学校に着いたらいち早くなまえの姿を確認しなければならないと思った。


「寿一、おはよ!」

「ああ、おはよう」


朝練習をしてる最中にもこのことが気がかりであまり集中出来なかったが、いつも通りなまえが教室にいて挨拶してきたのでとりあえず安心した。日頃からなまえは肌が白いが、特段顔色も悪くないようだし対応も変わりない。今は昨日の夜に見たテレビ番組の話や今日提出する課題の話をしている。本当にいつも通りだった。

「寿一、顔こわいよ?」

「む?そうか」

「眉間に皺寄ってる」

俺の真似とでも言うようになまえは眉間に皺を寄せた後、にっこり笑って見せた。それが可愛らしいと思うが、それに俺は疑問しか感じなかった。昨日のメールの件を一向に持ち出さないのは何故か。本人は送ったことも忘れてしまっただけなのかもしれないが、俺の考えすぎなのか。

「考え事?」

「ああ」

「重要?」

「重要だな」

「そっか…」

「なまえ、お前のことだ」

目を丸くしてなまえは俺を見た。思い当たる節はないようだが、聞いても別に問題ないだろう。

「昨日の夕方なんだが、」

「うん」

「俺にメールを送っただろう」

すると、なまえは耳まで真っ赤になった。そして「あっ、えっと、うん、あれね!あー、あのね、あの」と焦って何か言い始めたが、内容がいまいち掴みとれない。とりあえず俺は落ち着けと言って、なまえは俯いて黙ってしまった。だが、まだ耳はほんのり赤く、本当に分かりやすい奴だ。

「何かあったのかと思ってな」

「う、うん…寿一、あれスルーしてくれても良かったんだけどな…」

「どういうことだ?」

「あっ、いや、間違えて送っちゃったんだよね…」

「そうか」

「あ、あはは…あっ、でね」

「それで用件はなんだ」

「ん?」

「俺に何か言いたいことがあったんだろう?」

「!」

びくりと肩を跳ねさせて反応したところ、やはり何かしら言いたいことはあったんだろう。何をためらう必要があるのかは分からないが、これを聞かない限りは俺も気になって仕方がなかった。なまえもなかなか口を割らないので、言い出しにくいことなのかもしれない。無理に聞き出すのもなんだか心が痛くなった。なので、俺が「無理をしなくてもいい」と言おうとすると、なまえがようやく口を開いた。

「さ、さみしいな…って」

「さみしい?」

「最近寿一と一緒にいれなくてさみしいって書こうと、しました…」

「……そうか」

「……はい」

「…………」

「…………」

「俺も同じだ」

「寿一も?」

「ところでなまえ。今週末、部活が休みなんだが」

「お出かけしたい!寿一と!」

「ふっ、そう言うと思った」



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