「どうしたの」
なんて、俺の気持ちなんて微塵も知らないような顔でそういうなまえはずるい。それがまたかわいいのもずるいんだよな。俺がだんまりなのを不思議に思ってなまえは俺の顔を覗き込んできた。むかつくから顔を逸らしてやったら、小さいため息が聞こえた。ちがう。別に俺はなまえにため息つかせたいわけじゃないんだ。俺たちの日課(なまえとの時間)である朝のうさ吉の餌やりなのに、台無しになるようなことしてホント馬鹿だって思ってる。
「ねえ、黙ってちゃわからないよ」
(俺だって分かってる)
「なんかあったの」
(ああ、あったさ)
「それとも、私なんかした?」
(おしいな)
「私が嫌になっちゃったかな」
「それは違う!」
思わず大声を出してしまった。餌を食っていたうさ吉もびくっとして固まってしまった。なまえは俺がいきなり声を出すもんだから目を見開いている。なんだか申し訳なくなってきてしまった。
いや、なんというか、俺が全部悪いんだ。予想以上になまえを見てる周りの目が気になってしょうがなくて。あいつなまえのこと絶対見てるだろとか、さりげなくなまえに触んなとか、にやにやしながら話すなよとか。付き合い始めてなまえは俺のもんになったのに、付き合い始めてからよりいっそうなまえに目がいって、余計なものまで見えてきた。それも、全部が普通のことなのにそれにいちいちつっかかって、俺が全部我慢すればいいだけの話なんだよな。
「なんていうか、その」
「うん」
「俺の我慢が足りないんだよ」
「我慢?」
「うん」
「…新開くんに我慢させてたの」
「いやぁ、そういうわけじゃなくて」
「…よくわかんない」
「…じゃあさ、俺がお願いしたら聞いてくれるかい?」
「いいよ?」
その台詞はよく考えてから言った方がいいと思うのに。俺の彼女は純粋すぎてなんだかきらきら眩しいくらいだ。それなのに、今の俺といったらどろどろのぐちゃぐちゃで、それでもなまえの目から見た俺はずっと変わらないままなんだろう。
うさ吉を撫でてやると動物ってのは勘がいいのか、普段から撫でてやってんのに少し怖がっていた。なまえが聞いてくれるって言ってんだから、言わないと損だよな。
「今後一切、これから男と喋んないでくれるか」
この顔は予想できてたけど。
この一言じゃ俺のどろどろの感情が抑えきれなくて、次から次へと口からあふれ出してくる。俺の手は自然となまえが逃げないようになまえの手首を捕まえて、もう片方はしっかりと腰に回っていた。
「無理だよなぁ、こんなの。でもさ、なまえはやさしいから、なんでも手伝ったり教えてあげたりするし、それにつけあがって周りの男どもは群がってくるの、おめさん気づいてんのか。それだけじゃない。俺と付き合ってるっていうのになまえのこと好きだっていう奴がいるって聞くしよ。しかも一人じゃないんだぜ、これが。それもなまえは気づいてないんだろ?こんなのが毎日続いて俺は腸煮えくり返ってるんだ」
さあ、答えを教えてくれよ。
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