今日もハードな部活が終わって寮に戻ろうとしたら、目の前をなまえチャンがとぼとぼと歩いていた。俺が立っている場所からなまえチャンまで結構な距離があるのに視界に入るだけで分かっちまう。けど、いつもふわふわ笑っているなまえチャンが今は俯いていて、ここからでも分かるくらいしょぼくれていた。帰宅部のあいつがこんな時間まで残ってるってこと自体、ほとんどねえから当然俺は疑問に思う。疲れた足でなまえチャンに近づいた。


「よォ、こんな時間まで何してんのなまえチャン」

「荒北…」

「随分としょぼくれた顔してるじゃナァイ?」

「……うん」

「(ホントに元気ねえな)なんかあった?」

「なんにもない」

「んなわけねェだろ」

「……彼氏と別れた」


少し間を空けて、かろうじて俺に届くくらいの小さな声でその言葉がなまえチャンの口から出ると、事実をより認識してしまったのか呟いた途端そっぽを向いてしまった。俺からは顔は見えなくなったけど、きっと今泣きそうになってるに違いない。
こんな時間までなまえチャンが学校に残ってたのはついさっき別れたってことか。これは随分とタイムリーな場面に会っちまったもんだ。なまえチャンから毎日のように惚気話聞かされてたから、相当ショックなんだろうネ。

と、客観的になまえチャンのことを考えている俺は今までにないほど嬉しい気持ちだった。柄にもなくニヤけちまってるのも分かる。こんなになまえチャンはショック受けてんのに正反対の気持ちで彼女を見つめた。


「よかったなァ、あんなやつと別れられて」

「あんなやつって言うな…」

「事実じゃねえか。あんなろくでもねェやつと別れて正解」

「荒北に何がわかるの」


やっぱりなまえチャンは泣いていて、涙ぐんだ目で俺を睨む。でもなあ、今それやられても俺を興奮させることにしかなんねえんだよ。
何が分かる、だ?分かるに決まってんじゃねえか。なまえチャンがあいつと付き合う前からずっとなまえチャンのこと見てたんだからなァ。俺が部活でなまえチャンと時間取れないからってその隙に横取りしやがって。なまえチャンが俺に彼氏できた!って言ってきた時はぶっちゃけそいつに殺意しか湧かなかった。なまえチャンは俺のモンだ。勝手に奪ってんじゃねえボケナス。けど、なまえチャンは毎日毎日幸せそうに惚気るもんだから俺が我慢して我慢して。やっと今日が来たんだ。うれしくないわけねえだろ。


「…なまえチャンこそ、俺のことわかってんのォ?」

「……荒北?」

「毎日毎日さァ、聞きたくもないお前の惚気話聞かされて俺がどんな風に思ってたか知ってんの?」


時々、なまえチャンの鈍感さには呆れを通り越して怒りが湧いてくる。こんなに近くにいてどうして気づいてくれないのかと。新開や東堂にはとっくにバレてるようなことなのに、当の本人はどうもこう鈍感なのか。ちょっとにぶいのはなまえチャンの好きな所のひとつだけど、そろそろ気づいてくれてもいいんじゃナァイ?
今まで俺がどんな気持ちで思っていたか、壁際までじりじりと追いつめながら見下ろした。今までこんな目でなまえチャンを見たことなかったから、俺より頭一個分くらい背の低い彼女はひどく怯えている。まあ、そうだろうネ。なまえチャンの前では俺は優しくしてたから。


「ねェ、俺がどんな風に思ってたと思う」

「し、知らない」

「ただの彼氏の話も聞いてくれて相談にのってくれるやさしいやさしい友達だと思ってたァ?」

「……ちがうの?」

なんの疑いもなく俺を見上げる。
こんな時でもなんでこんなにかわいいんだろうな。

「ずっと、なまえチャンのこと食べたいくらい好きだって思ってた」

怯えて動けないのをいいことに、おいしそうななまえチャンの唇に噛みついた。

「俺にしときなヨ」



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