私は運動もそこまで得意ってわけではないし勉強だって並の並。テストを返されるときも点数が普通すぎて先生に何もコメントされないような感じ。かといって文化系の部活に入っていてものすごい得意なことがあるわけでもない。放課後はHRが終わった途端に帰り、帰宅部として家で満喫する生活を送っていて、青春なんてものとは程遠い高校生ライフを送っている。
しかし、こんな私が唯一楽しみにしていることと言えば、運動部に入っている友達の試合を応援しに行くことだろうか。試合というのは大体休日にあるものなので、最初はめんどくさくて渋々といった感じで見に行ったものだが、実際に目に入った光景とは想像をはるかに超えていた。決して楽とは言えない表情で駆け回り、息を切らして、汗だくで。だけど、どこか楽しそうな顔をしている。見に行く試合はバスケ、テニス、サッカーと様々だったが、どれも共通して楽しそうにやっている。今からじゃあ、私はその中に入ることは到底出来そうもないけど、それを見るのが好きだった。そうやっているうちに私が見に行く試合はなぜかいつも勝ち試合で、色んな部活の友人から見に来てくれと頼まれるようになったことが多くなってきた関係で色々とお手伝いすることも増えてきたのは喜ばしいことだ。
そんなこんなですべての能力が並の私なりに短い高校生活を楽しくやっている、つもりだ。


(また目があった)


だけど、そんな私にも悩みというものがある。
一度目はただの偶然、二度目もただの偶然、三度目ばかりはなんだかおかしいと思い始め、四度目以降からはこれはおかしいと思うようになった。最近やたらと同じクラスの巻島くんと目があうのだ。
彼の綺麗な玉虫色の髪は視界に入るだけで目がつくけれど、もう何か月も同じクラスにいれば慣れるというものだろう。このクラスになってからは他の皆も巻島くんの髪には派手だのなんだのといろんなことを言っていたものだが、今では慣れて特に触れる人もいない。私もそれと同じだ。だから私は意図的に目をあわそうなんて気は全くない。もちろん目があったって恋する乙女のようなどきどきもしない。
ただこうも回数が多いとおかしいと思うのは普通だと思うんだ。朝、教室に入ってくるときだったり、移動教室で廊下を歩いている時や、プリントを後ろに回すとき等々。あまりにも多すぎやしないか。一日に2、3回は余裕で目をあわせている気がする。お互いそこまで話もするような仲ではなかったので尚更よく分からない。こんなのがもう1週間は続いていた。

こうして人知れず悩んでいる今日も、おそるおそる私は昼休みにごはんを食べに友達のクラスから自分の教室に戻ってくると彼も自分の席に戻ってきていて、机に伏せて寝ているようだった。どうして自分の教室に入るのにこんなにびくびくしなくてはならんのか。しかし今日はまだ大丈夫かなと、教室に足を踏み入れそそくさと自分の席に座ろうとすると、不意に寝ていたはずの巻島くんがのっそりと顔を上げて私を見た。正直やられたという思いだ。彼は彼で私を見た後、すぐにまた机に伏せてしまった。

今のはしょうがない。私が彼の前の席なのがいけない。
なんだか負けたような気分になってしまった。ため息も出そうになって、時計を見ると案外まだ次の授業まで中途半端に時間があった。携帯の充電はもう切れていて暇つぶしもできないし、仕方ないので教科書でも眺めているかと思って教科書を取り出したときだった。


「みょうじさん」


これには流石に肩が跳ねた。
前の席なのに巻島くんと事務連絡以外そこまで話さない私にとってはびっくりした。だって、ただでさえ変な髪の色をして、目は切れ長でちょっとこわいんだもの。巻島くんと謎の状態が続いている中だから、今だって空耳かなあとか思いたい自分がいる。

だけど、今度は指で私の背中をつついてくるんだ。意を決して、私はギギギと効果音がつきそうな感じで体を後ろに向けた。


「な、なんでしょう」

「…、みょうじさんてさ」

「うん」

「明日とかって予定空いてるか?」

「あ、明日?」

「土曜日っショ」

「えっと明日は……うん、特に何もないかな」


なんかあんまり話す機会なかったから緊張するなあと思って、話を聞くと、予定が空いているかなんて聞かれて面を食らった。その言葉から余計なことを考える余裕もなく、急いで明日のスケジュールを確認してみるとこれがまた空いてるんだな。巻島くんは苦手だけど、ここで嘘をつくのもなんだか気が引けるので正直に言ってしまった。


「明日、峰ヶ山でレースあんだけど、よかったら見に来るっショ」

「レース?」

「そ、自転車の」

「自転車?」

「あー、なんだ、みょうじさんが来る試合は勝つって聞いたもんだから来てほしいっていうか」


いつもはばっちりと目をあわせるくせにこの距離では目をそらせて首をかいて、巻島くんは言った。ちょっとおもしろい。それに総北高校は珍しく自転車部もあったのに、そのレースを私はまだ一度も見たことがなかったのでどんなものなんだろうかと今から想像するだけでわくわくした。


「自転車かあ…」

「そんな感じ、っショ」

「…………」

「……別に嫌だったら来なくてもいいけど」

「行く!明日だね!何時からやってるの?」


やはりレース見たさのわくわく感には勝てず、快く誘いに乗ってしまった。でも巻島くんは私の返事を聞くと少し口の端が上がって詳細が書いてあるチラシとおすすめの観戦ポイントを教えてくれた。案外彼はこわい人じゃないのかもしれない。



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