素晴らしく天気の良い休日に東堂からの電話で叩き起こされ、「こんなに天気もいいことだし山でも一緒に登ろう!巻ちゃん!」と朝から胸糞悪い思いをした。だけどまあ、カーテンを開けてみると東堂の言った通り文句のつけようのない空だった。自転車乗りとしてはこんな空を見たら自転車に乗らないわけにはいかないわけで、この空の下を走りたいと思ってしまう。だから仕方なく東堂の誘いに乗ってやり、すぐに着替えて落ち合う場所に向かった。山もいつもより緑が濃いような気がする。合流して早速山を軽く走った後に休憩で水分補給している最中だった。


「巻ちゃん?おーい、巻ちゃん」

「…………」

「巻ちゃん!!」

「……っ、いきなりなんだヨ?」

「なんだはこっちの台詞だ!さっきから俺と話しててもぼーっとしているではないか!具合でも悪いのかね?」

「ああー…そうか?悪ィ、大丈夫だ」

「と言って、また上の空になるんだろう?まったくなんなんだ?まさか…俺がかっこよすぎて見とれてたとか」

「それはないっショ」


東堂に言われてはっとするまで気づかなくなるくらいなんて思わなかったもんだ。ちなみに俺が否定した途端にしょぼくれる東堂のことは微塵も関係ない。俺にもよく分かんねえっショと言いたくなるくらいだ。
ただ一つのことをずっと考えていた。流石に自転車乗ってるときは考えてはいないが、改めて最近を振り返ってみるとずっとこんな調子だった。

しかし、そろそろ面倒なことになりそうな予感がする。休憩も十分に取ったので、また走り出そうと自転車に跨った。


「はっ、もしや…」

「東堂ォ、そろそろ出発するぞ」

「巻ちゃんに春でも来たのではないのかね…?」

「……ハァ?もう春は終わったっショ」

「いやいや、季節のことではなく」

「何が言いたいっショ?」

「だから」


巻ちゃんに好きな人でも出来たのではないかという話だ。
今度は自信満々に胸を張って東堂はそう言った。


「巻ちゃん?巻ちゃーん」

「…違うっショ」

「ははん、図星だな」

「だから違うって言ってんだろ」

「そんなに顔を赤くして言う言葉ではないぞ?」


ほれ、と言われて手渡された鏡を見れば耳まで赤くなった自分がいた(なぜ東堂が鏡を持っているのかと聞けば、いつ何時も美しくしていなければ女子が悲しむからな!ということらしい)こんな姿を見れば嫌でも信じざるを得ないが、未だにこんなことになるなんて信じられない自分もこの鏡には映っている。この短い人生の中で初めてのことなのだから仕方のないことなんだろうか。気付けばにやにやと俺の顔を覗いてくる東堂を睨みつけながら、彼女のことが頭に自然と思い浮かんだ。なるほどな、こういうことか。


「誰だ!巻ちゃんの好きな子とは!」

「お前に言うわけねェし、大体言ったところでお前は知らねェだろうが」

「ハッハッハ!好きな人がいると認めたな巻ちゃん!」

「……クソ、最悪っショ」

「で、誰だね?かわいいのか?俺の巻ちゃんの視線を独り占めするのは少し悔しいが気になるな!」

「いつ俺がお前のもんになったんだヨ」


よりにもよって東堂に気づかされる羽目になって頭も痛くなってきた気がする。めんどくせェ。手で顔を抑えるとまだまだ顔は熱を持っていた。今度は鏡を見なくても自分が今どんな状態であるかなんてよく分かった。そんでもって、茶化されるほど頭の中が彼女で埋め尽くされていくのがさらに俺を困らせた。

東堂がいつまで経ってもしつこく聞いてきそうでとっとと帰りたいと思い、ペダルを強く踏んだ。




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