(※男主です)
インハイ3日目、ラストステージ。観客側からゴールを見ていた俺は、チームの誰よりも一番早く優勝を見ることができた。けど、優勝したのは俺ら箱学の誰でもなく、総北の小野田くんだった。
俺の夏が終わった瞬間だった。
「先輩、こんなところにいたんですか」
「ん?ああ、真波おつかれさん」
「なまえ先輩がどこにもいなかったので探しましたよ」
「ごめんな…雑用も一年に任せてきちゃったし、真波も疲れてんのに」
「いえ…謝るのは、俺の方です」
小野田くんと並んでゴールした真波や、その後に続々とゴールした尽八とフクをテントまで運んで、タオルをかけてやったりドリンクを用意したり慌ただしく動いて、やっと大体の雑務が終わると急にふっと力が抜けた俺はふらふらとした足取りで人気のないところまで抜け出してきてしまった。ゴールすぐ後の会場はまだまだざわついている。そこから少し離れた所で適当に地面に座ってしまったが、さすが富士山の景色は最高だ。今日はよく晴れてなおさらだ。最高のレースびよりだと思う。でも俺の頭の中はそんなことじゃなくてもっと別のことを考えてしまうんだ。
別に悔しくはない。俺はチームのために精一杯のことをやったつもりだし、それはフク達にも言える話で過酷な練習に毎日耐えて続けてきた。それでも優勝できなかったのは、総北の方が一枚上手だっただけだ。
それだけの話なのに、なんで涙がでるのか訳分かんねえな。それに、膝がずきずき痛む。
みっともなく俺が一人男泣きしていると、真波に後ろから声を掛けられたので急いで袖で涙を拭ってなんでもないようなフリをした。けど、いつもへらへらしてる真波が思いつめた表情で俺を見ている。
「なまえ先輩の、…先輩達の思いを俺のせいで台無しにしてしまいました」
「……はあ?」
「…すみませんでした」
「ちょ、ちょっと待って」
「………?」
「なに言ってんの、真波」
今の一言で涙引っ込んでしまった。
真波だって精一杯やったろ。そりゃあ最初に先頭が見えた時、フクじゃなくて真波だったのは正直驚いた。けど、真波だって実力があってメンバーに入ったわけだし、その紛れもない実力でペダルを必死に回して先頭に立ったんだ。きっとフクも真波に全部託したんだろう。それだけでも十分で、総北が俺たちより強かっただけの話だ。ましてや雑用の俺なんかに、謝る必要なんてどこにある。
涙なんか目に溜めちゃってさ、俺も人のこと言えないけど、
「真波はさ、中途半端に力抜いて走ってたの?」
「っ、そんなことない!、です!」
「だろ?それなのに、俺に謝る必要なんかないよ」
「…なまえ先輩」
「ね?」
「ありがとう、ございますっ…」
「はは、安心して泣けてきた?」
「っ、それでも悔しい、ですから」
「そっかそっか、真波はよくやったよ」
おもむろに俺の隣に座った真波が堰を切ったようにぼろぼろと涙をこぼし始めた。何も考えてなさそうに見えてこいつも結構思いつめてたんだなと思う。こいつ、一年なのにインハイに出たし、プレッシャーも少なからずあったのかな。…いや、箱学が負けるとは思わなかったのか。俺だって箱学が一番強いと思ってた。だから負けたのかもしれないな。
髪の毛をわしゃわしゃと撫でてやると、真波はより一層泣いたように思う。俺の夏は終わったけど、真波はまだ2年もあるんだ。チャンスはまだまだある。
「っぐす、先輩が」
「ん?」
「先輩がもしインハイに出ていたら、きっと勝っていたと思います」
「真波……」
「俺は、なまえ先輩の走ってるとこを見たことなかったけど、先輩達が口をそろえてなまえ先輩はすごかったこと、言ってたんで」
「…そんなことないよ」
また膝がずきんと痛んだ。
考えたさ。2位だと分かったとき、俺がもしチームの中に入ってたらって、考えてしまった。この膝の怪我もなくなって全力でこのレースを走れたらと真波を見て思ってしまった。最低だよな。
だけど、俺がもし真波のかわりに走ってたとしても優勝出来なかったって何となく思うんだよ。
「仮に俺が出てたとしても、今の総北には勝てないだろうな」
「そうですか…」
「うん、ホントに良いチームだよ。総北は」
「俺もそう思います」
「今年は特にいい、チームワークも全部」
「……はい」
「…って、そういえば真波。フク達のとこにはもう行ったの?」
「…いやぁ、それがまだ行ってないんです」
「はあ!?俺なんかいいから早く行ってこいよ!」
「だって、なまえ先輩と一緒に泣きたいかったですし。でも結局俺が来たらなまえ先輩泣き止んじゃったんですけどね」
「〜〜っおまえ見てたのかよ!」
「ばっちり見てました」
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