夕方になって、騒がしかった教室も静まり返り、外からは元気に部活をやっている声が聞こえる。もう日も沈みかけて、私に付き合って話してくれた友達も帰ったり部活に戻ったりでぽつんと一人自分の席で佇んでいた。一人でじっとしていてもまさか勉強する気にはならないし、黙々と本を読む性格も持ち合わせておらず、外の声がやけに大きく聞こえるだけだった。私はぼーっとその音を聴きながら、その中に荒北の声は混じってないのが寂しく思う。ああ、しまったと思った。一度考えてしまうとさっきから荒北荒北って頭の中でぐるぐるして、どんだけあいつのことが好きなんだって思って、俯せて組んでいた腕に顔を埋めた。
まだ終わんないのかな、今どこ走ってんだろ。
そういえば荒北、お昼に女の子からなんか貰ってたな…

「…………」

そう思ったら部活が終わる音楽が鳴りだして、この教室ではやけにさびしく感じられた。


「オーイ、なまえチャン」

「…………」

「アァ?寝てんのか?」

「…寝てない」

「起きてんのかヨ。返事ぐらいしてもいいんじゃナァイ?」


本当はちょっとうとうとしてたけど。
顔を上げて、目を擦ってみると、荒北が私の前の席の椅子を借りてドリンクを飲んでいた。首筋を見るとまだ汗は流れていて、ついさっきまで練習してたんだなって思う。まあ、やけに色気があること。
本当に自転車部に入ってから、いや髪を切ってから本当に変わったなと思って、女の子にもモテるようになってきたし、あれ、嫌なこと思い出してきた。


「また寝んのかヨ」

「…………」

「さっさとお前送って寮帰りてェんだけど」

(荒北のばか)

「何とか言え、…って」

「荒北のばか…」

「何泣いてんの」


部活が終わるまで一人だったからか、お昼に女の子と話してたのを見てたからかさびしくて女の子に嫉妬して、いろんなのがフラッシュバックしてごちゃごちゃになってる。部活で疲れてるだろうに私を家まで送ってくれるのが本当は面倒でうざいって思ってるんじゃないかとか、何ひとつかわいいところもない私とどうして付き合ってるんだろうとか、全部荒北が髪を切りだした途端女の子がいっそう荒北のことを見るようになったせいだ。不安になってる。
だいたいいきなり泣き出して、荒北からすれば意味わかんないよなあ。ホント、自分で自分がうざったくなってきた。


「なんかあったの、なまえチャン」

「(こういうとき、やけにやさしいんだから)別に…何もない」

「ハァ?なんかあったから泣いてんだろ?」

「別に、何もない、し…」


私が勝手に泣いてるだけだ。ちょっとしたら、泣き止むからほっといてほしい。たぶん。
私が理由を言いたくないのを察してか、ため息が一つ聞こえた後に大きな手が私の頬を覆って、親指で涙をぬぐってくれた。あんまり力加減がなってなくて、ちょっと痛いのが荒北らしい。こういう時に意地悪な言葉を吐かないのも荒北らしくてちょっと笑える。


「荒北って、ほんとに髪切ってからモテるようになったよね」

「あー…そうか?」

「うん、」

「もしかしてなまえチャン、俺に嫉妬してくれてんのォ?」

「…違うから」

「ハッ、素直じゃねえなァ」

「違うって言ってるでしょ」

「だいたい、なまえチャンは髪切ったくらいで勘違いして近づいてくる女とは違ェだろ」


頬に当てられていた手が頭の方に回されて唇を耳に近づけられ、直に声が入ってくる。やっぱり荒北は意地悪だ。

「もっと自信持ちなヨ」

耳をがぶっと噛まれて叫びだしたくなるくらいだった。耳からものすごい速さで顔が真っ赤に熱くなっているのがわかる。

「泣き止んだところで帰んぞ、なまえチャン」

女々しく嫉妬してこいつのことなんか考えた私が馬鹿らしかった。




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