ぶっちゃけこんなに早くこんな日が来るとは思わなかったっショ。っていうか、俺がこんな青春のど真ん中走ってますみたいな真似するなんて想像もしなかった。そういうのは漫画とかドラマとかの話でいつかは俺にもそういうもんが来ることは覚悟してたけど、もうちょっと雰囲気ってもんがある。つまりは俺の考えてたのとは随分違ったってわけだ。みょうじさんの前で格好悪いことに本音をぽろっと出すつまりじゃなかった。もっと話して、仲良くなって、こうやって段階を踏んでからさりげなく言えればいいと思っていた。
あとは、もっと核心を持てる時に。俺はみょうじさんを意識しはじめてから随分立つけど、あっちは俺なんか眼中になかったみたいだし、ちゃんと話したのも最近になってからだ。全然日が浅いんだ。

こうやって考えれば考えるほど思わず頭を抱えてしまいそうだった。
みょうじさんも完全に俺の心中に感づいているみたいで、目を合わせようとしないしこれは腹をくくるしかないと思って昼休みに思い切って言ってしまった。それからの午後の授業は頭の中がぐるぐるしてみょうじさんになんて言おうか以外のことはまったく考えられない。
まず最初からうまくいくなんて思っていない。俺は元々そんなにモテるタイプでもねえし、仮にみょうじさんが誰ふりかまわずOKするような子でも俺はないだろう。こんな髪の色してるしなァ。けどメンタル的に、とりあえず玉砕されるのは勘弁してもらいたい。そのための言葉を必死に考えた。あとは部活には少し遅れることになりそうなので金城にメール送っとくか。机の下で携帯を開いてメールを打っているとプリントが回ってきた。みょうじさんの表情硬すぎっショ。絶対分かってる、俺が放課後なんて言うか分かってるだろ。露骨すぎなんだよ。

気が重い。



「…………」

「…………」

「……え、えええーっと、あの巻島くん部活はいいの?」

「遅れるって連絡したから大丈夫だ」

「そうですか…」


放課後になって、人気がなくなったのを見計らって空き教室まで連れてきたけど、二人きりになるのも初めてのことなのに今から重大なことを言うと思うと今までになく緊張してる。心臓はうるせえし、みょうじさんの顔もまともに見れやしない。それはみょうじさんも同じみたいだけど、お互いこんなだからしゃべりだせなくて教室は一向に静かなままだった。いや、俺から切り出すべきなんだろうけどどうにも言葉が出てこねえんだよ。ますます恰好悪くなってきた。
そんな空気に耐えきれなくなったのかみょうじさんが口を開いて俺に話しかけてくれた。情けない。


「あの、さ」

「っはい!」

「昼言ったこと覚えてるか」

「あ、う、うん」

「あれ、想像してるとおりの意味、だから…」

「そ、そっか」

「んで、俺もあの時言うつもりじゃなくて、だな…その、いきなりでゴメンってことだ」

「、あのね…私からもひとついいかな」

「お、おォ」

「…朝からいろいろ考えてみたんだけど、あの、なんで私なの、でしょうか」

「それは…」

自分でも驚いたことに何も出てこなかった。
ただ気づいたらみょうじさんを目で追っていて、大体好きだって気づいたのもこないだ東堂に言われて気が付いたことだ。ましてやいつからなんてことは覚えてないし、どこが好きかと言われれば雰囲気も含めてまるごとだと言うほかはないと思う。まあ、みょうじさんと話す前から思っていたことだけど、こうやって仲良くなってみょうじさんのことをよく知った今、好きだと言ったことに後悔はしていないことは確かだ。

「巻島くん?」

「なんでだったっけなァ」

「ええ?」

「きっかけなんて、覚えてないっショ」

それはみょうじさんを初めて見た時かもしれないし、笑ったところを見た時かもしれない。けど、そんなことは重要だとは思わない。
みょうじさんはぽかんとした顔で俺を見た。それに笑ってしまうと、「笑い事じゃない!」と怒られるがようやく場の緊張が解けた気がする。その時、俺のポケットの中の携帯がいきなり鳴りだして、つい反射で慌てて取り出してしまった。その拍子にボタンを押してしまったらしく、うるさい声が静かな教室に響いた。

「巻ちゃん!どうだね!いきなりで俺も焦ったがそろそろ打ち明けたころだろう!?」

「おまっ、今その最中だ馬鹿!」

「ん?誰?」

「あああ!マジごめんっショ!東堂ォもう切るからな!」

「おっ、ひょっとしてそこにいるのはみょうじさんかね?おめでとう!巻ちゃんが彼氏とは羨ましいかぎりだな!」

「お前はもう黙ってろ!」

「そう言われても、俺は」

「状況考えろって言ってるっショ!」

「ふっ、ははっ」

「……みょうじさん?」

「うん、決めた」

「何を」

「まだ完全に好きって言えないけど、それでもいい、なら」

はァ?と、つい間抜けな声を出してしまった。
いやいやいや有り得ない。

「…それ本当か?」

「なんか、巻島くんだったら大丈夫だと思ったんだ」

「よーく考えてみたのかヨ?…とりあえずでそう言っても後悔するだけっショ」

「えー、巻島くんから言い出したくせに」

「ん…まあ、そうだけど」

「巻島くん、顔真っ赤だよ」

「うる、せえ」

「そういうところが好きなんです」


はにかむ彼女に不覚にも胸をわしづかみされた気分で、こう、くらくらする。こんなにうまくいっていいのだろうか。ひょっとしたら夢なんじゃないかって思うくらいだ。つか、俺はみょうじさんを惚れさせるだけのことしたんだ。にやける口元を抑えてると、まだ笑ってやがる。東堂が電話の先で祝福する声が聞こえる。
とりあえず、アドレスでも交換しようか。



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