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「しずちゃん!しずちゃん!しずちゃん!」
「どうしたんだよ、イザヤ。ほら、髪がぐちゃぐちゃだろ」


幼稚園のおいかけっこでも本気で走ったことのないイザヤが珍しく走って俺の足にしがみついてきた。小さい衝撃に軽くバランスを崩しそうになるが何とか勢い良くやって来たイザヤを受け止める。風でぐちゃぐちゃになったイザヤの髪を整えて同じ目の高さまでしゃがんでやった。


「そんなことより、たいへんなんだよ!しずちゃん!」
「何があったんだ?」
「これはゆゆしきもんだいだよ!」


どこでそんな難しい言葉を覚えてきたんだと静雄は内心感心する。舌っ足らずなところが子供らしくてご愛嬌といったところか。静雄がそんな事を考えているとは裏腹に、イザヤはいかにも真剣そうな眼差しを寄越す。大人びたその雰囲気を作られ、ついこちらまで改まってしまう。これは本当に何か重要なことでもあったのだろうか?静雄はいつになく真剣なイザヤに応えるように次の言葉に耳を傾けた。


「しずちゃん、けっこんしよう!はやく!」


……本当に、何があったのだというのだ。










トロイメライは止まない










「だから、そのまんまだよ!けっこんだよ、けっこん!はやくけっこんしよう!」
「ちょ、声がでかいってイザヤ!」


「けっこん」を連呼するイザヤの口を右手で塞ぎ、左手で己の唇に持っていき人差し指を立てた。幼い子供が大の大人(しかも同性)相手に求婚の言葉を吐いているなんてそう見られるものじゃない。明らかに俺が変人扱いされる。俺の必死さが伝わったのか、物分かりの良いイザヤは大人しくなっていった。もう大声を出さないと確認し、イザヤの口を塞いだ手を退ける。


「落ち着いた?」
「…………うん。でも、たいせつなはなしだったんだ」


結婚から繋がる大切な話って何だ。と思ったが口には出さない。少しばかり心当たりがあったからだ。イザヤが俺を「およめにもらう」と言っていたのは記憶に新しい。それは独り身の俺を思って言ってくれた言葉だと思っていたのだが、まだ忘れていなかったのか。静雄は内心苦笑を浮かべると何があったのか聞いてみた。イザヤはあからさまに不機嫌そうな顔で、ぼそぼそと話し出す。

「……ばらぐみの、りさちゃんが、しずちゃんのおよめさんになりたいっていってたの」
「へーぇ……」


初耳だった。いやまあ、知る術もなかったが。静雄は驚きと嬉しさ半々だった。やはり子供とは言え人に好かれるのは素直に嬉しい。それにお嫁さんになりたいだなんて可愛いものじゃないか。きっと大人になったら忘れていくのだろうが、子供の頃に言っていたこと何てそういうものだろう。何気なく話を聞いていたつもりがイザヤの鋭い視線がささる。


「しずちゃん……いま、うれしがったでしょ」
「……そんなことねぇよ」
「そんなことある!カオがゆるんでたよ!もーしずちゃんのばか!うわきもの!」
「ご、ごめんって…」


つか浮気者って何だよ。俺達ってお前の中でどんな関係?と思ったが何やらイザヤがご立腹のようなので取り敢えず謝罪しておく。何故謝なければいけないのか分からなかったが。俺は慎重にイザヤを宥め、続きを促す。


「だから、はやくけっこんして、しずちゃんはおれのおくさんだって、しょうめいするんだ!」


最後の方は嬉々として語るイザヤ。うん、話は見えた。更にイザヤは「じゅうこんってやっちゃいけないことなんだよね?だからさきにけっこんするんだ!」と続けるので何かもうお手上げだった。何を言っても納得しないであろうイザヤにここは同性と言うことを抜きにして話に乗ることにした。


「あー…イザヤ?確かに重婚は罪になるが……それ以前に結婚は18にならないと出来ないんだぞ?」


その瞬間、イザヤはピシリと固まった。笑顔のまま。イザヤにこの知識はなかったようだ。重婚を知っているにも関わらず。これでもう結婚だなんて言わなくなるな、と思い、まあ気を落とすなとポンポン頭を撫でてやる。俺自身も少し残念だと思っ……てない。断じて。俺にペドの趣味はないからと自分に言い聞かせる。知らない内にイザヤを撫でる腕に少し力が入っていた。


「よ、よし。この話は終わり!な?ほら、外で遊ぶぞ。イザヤ、何して遊ぶ「じゃあ、かりのけっこんしきをあげよう!」…………は?」
「しずちゃん、ちゅーしよう!」


そう言って俺に乗り上げてくるイザヤ。ガシッと顔を両手で固定され顔を近づけてくるものだから慌ててストップをかけた。


「待て待て待て!何だよ仮の結婚式って!?」
「そのまんまだよ!とりあえず「ちかいのきす」だけでもすませておこうとおもって」
「キスっ……て、おまえ…」


本気で言っているのだろうか?普通、こんな幼児が年の離れた男にキスしたいと言い出すか?静雄は内心大焦りだった。遠回しでやんわり断ってみるがイザヤは「ちかいのきす」をすると聞かない。するまで今日は帰らないという。イザヤは意外に頑固なところがある。何を言っても無駄だと静雄は説得を諦めると「キスはほっぺにな」と言い聞かせた。


「いいか、ほっぺだぞ」
「うん!わかってる!しずちゃん、めとじて!」


真正面に立つイザヤに対して静雄は床に座り瞳を閉じる。イザヤの小さい手が顔に添えられ、くすぐったいと思った。しかしいつまで経っても頬に感触はない。どうしたんだ、とこっそり瞳を開けると、それと同時に唇にふに、とした感触。





「………………は?」





それは一瞬触れるようなものだったが、確かに唇に違和感があった。わけもわからずイザヤを見ると、彼は嬉しそうに笑っていた。


「しずちゃんのはじめて、うばっちゃった」


遅れて顔の熱が上昇し始めた。キス、されたのだ。唇に。百歩譲って頬ならキスをして良いと言ったのに。言い返そうと口を開くが、言葉にならなかった。イザヤは静雄の首に腕を回し抱き付く。


「しずちゃんはおれのだよ、しずちゃん!」
「…………マセ、餓鬼…っ」


このことは何が何でも他人に話しはいけないと本当に言い聞かせなければならないと静雄は思った。





ハイドレートのレトロ様から頂いた素敵相互記念文ですっ^^!
仔臨がかわいすぎてもう!(^p^)はあはあ
これだけで白米10杯はいけry
素晴らしい小説ありがとうございました///!これからもよろしくお願いします^^




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