( 7/12 )


俺は苗字名前ちゃんの古参ファンである。あまり古参古参と言ってマウントをとる面倒なヲタクにはなりたくないが、本当に古参なのだ。

出会いは名前ちゃんが初めて動画を上げたその時まで遡る。まだ視聴回数も1桁でコメントも1つもついてないその動画を見て、身体に電気が走った。『この子は伸びる!』と確信した。自分でMIXしたのか、音質はお世辞にも良いとは言えなかったけど、地の歌唱力と可愛い歌声に即落ちした。

【めっちゃいい!】

奇跡的にも、俺のこの一言が名前ちゃんの動画の初コメントとなった。この事に関して証明出来る術が無いけど、今でも誇りに思っている。

それから1つ、2つと上げる毎に名前ちゃんの動画のクオリティは向上して行った。その過程で良いMIX師とも出会えたのか、爆発的に再生数は伸びていった。




1番最初に上げた動画、今見返すととっても恥ずかしいんだけど、だからこそ当時貰ったコメントが嬉しかったから消せないでいるんだよなぁ…😣笑
(名前ちゃんのTwitterより抜粋)

もう流れて消えてしまっているけど、この『コメント』の中に俺のコメントも含まれていたら嬉しい。




歌い手として着々と階段を登り詰める名前ちゃん。

彼女の歌ってみた動画を延々とリピしてたある日、俺に衝撃が走った。


「アニソンタイアップでプロデビュー!?!?!?」

ちなみにこの時初めてHNでは無く本名を知った。そして合わせて初めて顔が公開された。

それまではいつか外見が公開されて、例え彼女が養子に恵まれていなくても推し続けようと固く心に誓っていたのだけど…

「ぬあああああ!!!顔も可愛いっ!!!!」

のたうち回るほどドストライクだった。


「好き……え、何これしんど………好き、一生推す…………」

リアコ勢の爆誕である。
とはいえワンチャン狙いたいなんて疚しい気持ちは一切ない!はず!いや、あっちから迫って来られたら断れないというかむしろウェルカムなんだけど、そんなの夢物語だと分かってる。落ち着け俺の。ひっそりと…ひっそりと応援出来ればそれでいい。あわよくばいつかライブに行きたい。名前ちゃんを生で拝みたい、一度でいいから。

まぁ、弟2人養ってる俺からしたらライブ代っていうのはかなり高い訳で。(決して名前ちゃんのライブがその値段の価値が無いという話では無い)

だから初ライブアナウンスが来た時も、推しの順調な活躍に喜びはしたけど、俺は………行けない………と虚無感に襲われた。辛かった。





が、世の中には神がいるのである。

「一郎君いつもありがとう!報酬以外に1つ受け取って欲しいものがあってさ、一郎君この子好きだったよね?」

仕事の常連さんが差し出して来た紙を見て、時が止まった。


「名前ちゃんのチケット…!!!しかもかなりの良席!?!?」
「取ったはいいものの、仕事で行けなくなっちってさ〜。折角だから貰ってよ」
「そ、そ、そんなっ…い、いいんすか!?」

リアルに手が震えた。
札束の方が気楽に持てるんじゃないかって思うくらい、薄い紙切れ1枚のそれが俺にとっては高級で価値のあるものだったのだ。

多分だけど、仕事で行けなくなったというのは嘘だ。俺が前に名前ちゃんのファンだと熱く語っていたのを覚えていてくれて、俺の為にわざわざチケットを取っていてくれたのだ。それを確認するのは野暮だから、そんな事しねぇけど。
この常連さんにはこの先一生頭が上がらない。



それからの俺は、夜空いた時間に名前ちゃんの曲を作業用BGMにせっせと団扇を作成し、参戦服もイケブクロで新調し、ライブ前日に普段は行かないちょっとお洒落な美容室を利用し、万全の体制で当日を迎えた。(無駄遣いをしてしまった感は否めないが、二郎と三郎が「折角推しを拝むなら!」と後押ししてくれて調子に乗ってしまった。本当によく出来た弟達だぜ。)




「皆さん!私がこういった場で、今歌を歌えるのは皆さんの声援のお陰です!」
「うおおおおおおお!!!!!」

推しが実在するってやべええええ!!!
実体が!画面の奥ではなく!!ステージの上に存在する!
それだけでここまで興奮してしまうとは。

基本女の子が多いこの会場に若干居心地の悪さを感じていたけど、始まればそんなの微塵も気にならなくなっていた。

「あ、やべっ……目が合った!」

これが噂の「たまたまこっちを見ただけだけど、目が合ったと錯覚してしまう」ファンの心理なのか。いやでも目が合った。本当に。そう思わせておいてくれ。


興奮し過ぎてほぼライブ中の記憶が無い。
気がついたら帰宅していて、弟達がニコニコと出迎えてくれていた。


「兄ちゃんライブどうだった?」
「楽しめましたか?」

「本当にもう………もう………好き………」

早速ライブロスなんだけど、この先何を楽しみに過ごせばいい?

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