▼ 俯瞰
「ね〜え、今度の土曜クラスの皆で遊びに行こうよ」
「行かない。なんで仕事でもないのに休みの日に学校の連中と顔合わせなきゃいけないの」
「名前辛辣」
クラスメイトの名字名前は、コミュ力こそ高いんだけど、人と一線を引いているように見えた。最初は仲良くしてた王様が失踪したのを気に病んでるからなのかなって思ってたんけど、それだけではないらしい。
詳しい理由はまだ教えてもらえそうにない。
「行こうよ〜。ほら、フルーツパーラーでパフェ食べよ」
「学校の帰りとかでよくない?」
「放課後だって名前すぐ1人で帰っちゃうじゃん」
「まあね」
クラスの中で、目に見えて名前に塩対応されてるのはま〜くんだった。逆に俺は、多分、クラスの中でも結構気に入られてる自信がある。「顔が好きだから」というシンプルな理由らしい。腕に絡みついても鬱陶しそうな顔こそするものの、払い除けられたりした事はなかった。
「もっと俺と友情を育もうよ」
「友達は千冬で間に合ってるんだよねぇ」
「出た。チフユちゃん」
名前が友達とのエピソードを語るとき、高確率で出てくるのがチフユという子だった。中学からの友達らしくて、名前が絶大な信頼をおいている子。
ちょっと…結構、羨ましかったりする。
「じゃあチフユちゃんも一緒に遊ぼうよぉ〜」
「いや凛月とは気が合わないと思うよ」
「ナッちゃんも呼んで2対2とかなら何とかなるなる」
「ならないと思う」
友達の友達、しかも女の子とか、いつもだったら会うの面倒だけど、名前の友達なら興味ある。あわよくば過去に何があったのか教えてほしい。自分でいうのもあれだけど、俺は甘え上手な方だから、ちょっとオネダリすればいける気がするんだ。
「何?千冬と会いたいなら帰りに校門で待ち合わせてるけど会う?」
「ほんと?」
「挨拶くらいしてもいいよ…ぶふっ」
「え?何笑い?」
「いや?」
突然吹き出した名前に首を傾げたものの、会わせてもらえるなら会ってみたい。それで友達になれそうならなりたい。話を聞きたいのもあるし、名前の友達ならきっと良い子だろうし。
「じゃあアタシも行きたいわ!」
「いいけど」
横で話を聞いていたナッちゃんも意気揚々と立ち上がった。名前は何故かずっと笑いを堪えている。
「名前ちゃんのお友達、どんな子なのかしらぁ。…ちなみに不良?」
「私の友達が全員不良みたいな偏見やめてくれない?…不良だけど」
不良なんじゃん。
不良…不良……女の子の不良ってどんな感じだろ?名前も中身はちょっと不良っぽいけど見た目は普通(顔は可愛いけど)だから、同じように見た目は普通なのかな?
「千冬お待たせ」
「おー…後ろの2人何?」
ビックリした。
まず、名前と知り合ってからずっと女の子だと思い込んでいたチフユちゃんが男だったことにビックリした。金髪ツーブロックピアスの、バリバリ男だった。確かに千冬って男でもありえる名前だよね。
あと、男には塩気味の名前が、千冬くんに対してはニコニコ駆け寄っていったものだから、それもビックリした。
「クラスメイト。仲良くしてくれてんの」
「へー。こいつ面倒だろ」
「学校では超優等生だから」
「絶対嘘だな」
何。何この、めちゃくちゃ気を許してる会話は。絶対嘘だな、とか言って名前の頭をわしゃわしゃとした千冬くんは、クラスでも名前と仲が良いと思っていた俺の自信を見事に粉々した。名前の口から『仲良くしてくれてんの』という言葉が出たのがまだ救いだった。
「女の子だと思ってたわ…」
「え、むしろアンタ男だよな…?」
「千冬、そこはデリケートな問題だから」
ナッちゃんが俺の気持ちを代弁してくれた。だからさっき名前は笑ってたんだなって、今更ながら気がついた。もっと早く訂正してよ。
「まぁいいわ、『千冬ちゃん』。今度の土曜名前ちゃんをお借りできないかしら?」
「土曜?どーせ俺ら集まってもダラダラするだけだし別にいいけど…」
「嘘でしょ!?私がいなくて寂しいとかそういう気持ちは無いの?」
「ねぇよ」
「私は千冬がいなかったら寂しいけど!?」
「分かった分かった」
この2人の間に恋愛感情があるように見えるかって聞かれたら微妙なところだけど、名前は千冬くんのことが大好きっぽいし、千冬くんのこの感じは、俺たちよりも自分のが名前と仲良いって分かってる自信から来てるものだ。
「ねぇ千冬くん」
なんかちょっとムカついちゃったから、意地悪してみようと思う。
「この学校で名前に彼氏が出来ちゃったらどうする?例えば…俺とか」
いつものように名前の腕に絡みついてみる。千冬くんの前でやってら流石に怒られるかなって思ったけど、名前はいつものように暑苦しそうにするだけだった。
「…死にたくなきゃやめた方がいいぜ」
「死に…?」
俺に殺されたくなきゃ、とかそういう話?
そんな風には見えなかったんだけどな。
「こいつ、スゲー人に好かれてっから」
「その話やめて」
名前を揶揄う様な言動に聞こえたけど、千冬くんは笑ってなかったし、名前は本気で嫌がってるように見えた。
「そもそも私と凛月はそういうんじゃないから。この先も」
「だろうな。じゃなきゃオマエの場合、腕なんか今頃振りほどいてるだろうし」
別に俺だって名前とどうこうなりたい訳じゃない。でも友達になれたらなって。卒業しても定期的に集まって、下らない雑談出来るような仲になれたらって思ってだけ。
そう思ってただけなのに、俺と名前の間にある壁って、思ってたよりも分厚いのかもって思い知らされた瞬間だった。