「あ、名前先輩」
「悠馬〜!お疲れさまっ」
客席に移動して見やすい場所を探していると、ゆまぴが知り合いを見つけたようで挨拶をしていた。その人がとても可愛い女の子(先輩?)だったから、ゆまぴとの組合せが意外で失礼ながら少し驚いてしまった。
「あれ、1人?珍しいね」
「花房もお疲れ。さっきまでちづと一緒だったんだけど…ご機嫌損ねちゃった」
「あらら」
花房センパイとも知り合いらしい。親しげ、というには微妙な感じ…
少なくとも花房センパイの取り巻きの類ではなさそうだ。
「ん?」
そわそわと3人のやり取りを見ていたら目が合った。…あ、思い出した。この人確か寮の説明の時にいた、風紀委員長さんだ。近くで見ると、より可愛らしい顔をしているのが分かった。軽く微笑みかけられて、顔が少し熱くなった。
「あの、」
「…あれ、君どうしたの?」
せっかく自己紹介しようと思ったのに、俺に向けらたはずの視線が、すぐに横に向けられてしまった。大丈夫?と風紀委員長さんがバカ丸の顔を覗きこんでいる。
「君達、新兎千里と獅子丸孝臣だよね?新入生の」
俺たちのこと知ってるんだ。一応さっきまでステージにも立っていたし、それなりに顔は知れ渡ってるのかもしれない。
「あ、私は苗字名前ね。名前って呼んでくれていいよ」
そうそう、名前センパイだ。白華先輩の隣での自己紹介がジワジワと蘇って来た。
人当たりのいい笑顔。でも、気のせいだろうか。俺もそういうのが得意だから、なんとなく分かる。どことなく、こうすればいいって頭で考えてこの人は笑ってる。
「私も特進の生徒なの。よろしくね」
「特進に女なんていたのかよ」
顔色の悪いままのバカ丸が名前先輩につっかかった。
「あはは!人を睨む余裕があるなら大丈夫そうだね!」
「るせぇ…」
相変わらず感じ悪い奴、と思いつつも俺も同じ疑問は頭を過っていた。1年には女の子いないからなぁ。
「女子の特進生ね、いるよ〜。3年にももう1人いるし、私のペアの子」
「へぇ〜、知らなかったです!」
「最近また登校してないからね〜…3年全員」
「え?3年全員…?」
「ある意味、超自由人の集まりだから」
名前センパイの苦笑いに、ある程度は察する事ができた。今まで会った特進の方々全員、もれなく自由人というか超個性的なんだけど、3年生はもっとすごいのだろうか…?何それ恐ろしいんですけど。
「あ!紫音達だ」
「…え?あっ!ハリー達もうゆめマイクつけるみたいだ!」
もっと詳しく聞きたかったけど、ハリー達の順番が回って来たから一旦この話はお開きになってしまった。まぁそのうち本人達に会えるだろうし。
今はハリー達の初ライブに集中しよう。この場にいる全員が、ゆまぴ達みたいな華々しいライブを期待している。俺だってそう。

それなのに、何かおかしい。

「紫音…?」

ハリーの様子がおかしい。でもそれ以上に、名前センパイの震える声が気になって仕方なかった。

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