「え、いいねいいね!悠馬イケメンじゃん」
「はぁ?目がおかしくなったんじゃないの?」
裏切り者の花房が1年生と一緒にゆめライブをやるというから、どんなものかと見に来てみれば…
一緒に来た名前は花房よりも1年の方に夢中のようだった。
「あんなライブ、仁さんのライブとは比べるのも烏滸がましいくらい低俗でレベルの低いものですね」
「えぇ…?まぁ、花房の趣味が全開だったのは否めないけど」
「本当に女子を誑かすことにしか興味の無い男だよね」
別にあんな男が黒寮からいなくなろうが痛くも痒くも無い。むしろ問題児が1人減って、清々しいくらいだ。代わりに入ってきた湊は問題が全く無いかと聞かれれば、有りまくりだけれど。どっちもどっちかな。
「今年の寮対抗戦も白寮優勢かな〜」
どちらにせよあんなミジンコの存在の有無で黒寮の優位は揺らぐ事ない、なんて思っていたのに。さり気なくだけど、嬉しそうに零れた名前の呟きが無性に癇に障った。
「名前は白寮贔屓だよね」
「へ?そんな事ないよ」
「私や仁さん…それにあの会長だっているのに、名前が見てるのはいつだって白寮な気がする」
付き合いだけでいったら私達の方が断然長いのに…虎澤一生とも同じくらいの付き合いだけれど、飛び抜けて奴を慕ってた、という事でも無かったはずだ。じゃあ何故。会長が白寮なら贔屓したくなる気持ちも察する事が出来るけど、そうじゃないのだから納得いかない。
他に理由があるとするなら…名前は三毛門と仲がいい。それに…
「白華がいるから?」
生徒会副会長だから、風紀委員長だから、とそれらしい言い訳をして一緒にいる2人の姿をよく見かける。白華はともかく、名前の感情が恋慕かどうかまでは私には計りかねるところではあるけれど。
「時雨のことは大好きだけどね」
「…そうやって茶化して笑って、本当は何考えてるのか全然分からないんだけど」
昔は思った事が全て顔に出るタイプのはずだったのに、年々何を考えているか分からなくなっていく様に感じる。表面上は前と変わらず取り繕っているけど、どことなく壁を感じるし、真意が掴みにくくなってしまった。
「そりゃ変わるよ」
「名前?」
「私ももう17歳だよ。ちづとはもう何年の付き合いだっけ?いつまでも昔のままじゃないよ」
昔は笑いたい時に笑って、泣きたい時に泣く子だった。強がって泣けない私の隣で、私の分まで泣いてくれて、私も名前のせいにして泣いたっけ。懐かしい。
今の名前は泣きたい時だって無理して笑う子になってしまった。だから笑ってても、本当に笑っているのか分からない。
「ちづの事も大好きだよ。それはずっと変わらない」
その言葉は信じていいんだよね?
私と名前の『好き』は違うかもしれないけど、その言葉だけは表面通り受け取っていいんだって、信じてるからね。
「私だって…」
こんな時くらい、私も素直になって大好きだよって言えればいいのに。
出会った時から当たり前のように会長のものだった名前に、そんな事をいえる勇気を持ち合わせてなんかいなかった。
「また皆で遊びたいね」
「遊ぶ、って歳でもないでしょ」

でも、戻れるならあの頃の様に。
他人なんて…入ってこない世界で、昔みたいに笑い合いたい。


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