「そういえば…柳先輩は、その…」
部屋に帰ると、悠馬が遠慮気味に話しかけて来た。
「ん?何かな?」
「…名前先輩とも、キティさん?達と同じように遊んだりしてるんですか?」
ああ…名前は悠馬の逸品を食べていたっけ。
悠馬ってば名前の事が気になっちゃったのかな?それで少しでも身嗜みに気を使うようになってくれれば、僕としては万々歳なのだけど…まだそういう感じじゃなさそうだな。
それに、
「名前には恐ろしくてそんな事出来ないかな」
「恐ろしい?」
軽い気持ちで名前の事を好きになったら、苦労しちゃうと思うよ。なんて、恋の右も左も分からない顔をしている悠馬にはまだ言えないけど。
思い出すのは入学して少し経った後。凛先輩に呼び出されたっけ。



「何です?話って」
「いきなりごめんに〜」
凛先輩はいつも通り、屈託のない笑みを浮かべていた。
「やなやなのクラスにいる名前ちんっていうのは俺の幼馴染で激かわたんな女の子なんだけどさ」
苗字名前。
当たり障りのない話しかした事がないけれど、可愛らしい子だなとは思っていた。男ばかりのむさっ苦しいクラスの中に咲く一輪の花。いつか仲良くなれれば、とは思っていたんだけど…
「ま、何となく分かるっしょ?俺っちの言いたいこと」
「と、言いますと?」
「やなやな、そういう意味では素行がよろしくないからさ〜…」
凛先輩はおちゃらけていて、明るい性格だと認識していた。学園では基本的に笑顔で過ごしている。今だって笑顔のままだ。でも、いつもの笑顔とは少し違う様に感じた。強者が発する、自分に逆らうな、という圧の孕んだ笑顔だった。
「TBK、だよん☆」
「…TBK?」
「手を出したら/ぶっ飛ばすから/覚悟しておけ、OK?」
あ、この人本気だ。
軽い気持ちでちょっかい出したりしたら、本気で僕のこと仕留めに来るつもりだ。
柄にも無く身震いしてしまった感覚は、今でも忘れない。


「あんな目で凛先輩が僕を見て来たのは、今のところあの時だけだもんなぁ」
「凛先輩?」
「そのうち悠馬も分かるさ」
怖いのは凛先輩だけじゃないしね。
素直にならない分、下手したら凛先輩よりタチが悪いかもしれない副会長様だっている。
「僕は悠馬を応援するよ」
「?ありがとうございます」

自分が被害を被らない程度に、ね。

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