「あっ、あの4人が特進の新入生だよね!初々しいなぁ」
「…名前だってまだ初々しいと思うけど」
「私が初々しいというより、時雨がワーホリ過ぎて最早悟りを開いてるだけなのでは?」
1500名程の新入生が集まった空間を、名前は楽しそうに眺めていた。後輩という存在が出来るのを楽しみにしていた彼女にとっては、この光景だけでも楽しいものに見えるのかもしれない。特に特進クラスとして直接の後輩になる4人が現れた時には、目を輝かせていた。
「後輩君たち可愛いね!仲良くなれるかな?」
「名前ならすぐ仲良くなれると思うよ」
自分で言うのもあれだけれど、なかなか他人に心を開かない俺ともここまで仲良くなれたのだから…と言おうと思ってやめておいた。俺だけが名前と仲が良いと思っていたら恥ずかしいし、少し……かなり、落ち込む気がする。そんな柄では無いくせに。
「とりあえずやること終わらせましょうか」
深く突っ込まれないように、話題を逸らす事にした。タイミング的にもそろそろ進行しなくてはならないし。
「そうだね、よろしく生徒会副会長様☆」
☆じゃない、全く。変なところで会長に似てるんだから。…名前の幼馴染であり、生徒会長でもある久磨会長が例の如く不在だから俺が代わりにここに立っている。どうせあの人は名前が呼べば来るんだろうと思いつつ、2人が笑い合う光景を見たくないから、という下らない理由で頼まない俺もどうかしている。
『皆さん、静粛にお願いします』
拡声器からスピーカーへと繋がった俺の声が、その場に響き渡った。
『僕は2年の白華時雨です。3年生は今ほとんどが海外研修中のなで、代わりに僕と志部谷と苗字が、寮生活について説明をさせていただきます』
「赤寮の苗字名前です!女の子は困ったことがあったら私に相談して下さい。一応、風紀委員長でもあります。」
容姿端麗な名前が軽く微笑んだ事で、一部の生徒からから歓声のようなものが上がっていた。それに比べて志部谷は、悪戯に新入生を怯えさせている。
「志部谷。出てくる気がないのなら、僕の方で勝手に進行しますよ」
「………で……んだ…………」
名前ほど愛想を振りまけとは言わないが、この場について来たからには、ある程度己の責務を果たそうとする意思を見せてくれてもいいのでは無いのか。
「…幽はね、自分から花房を奪った1年の面を拝んでやるってここに来たみたいよ」
呆れている俺に、名前がこっそりと正解を耳打ちをした。
「はぁ…何ですかそれは」
新学期早々頭が痛い。志部谷はほぼ使い物にならないと判断した方が良さそうだ。
「女子寮の細かい説明や規則については、名前に任せて大丈夫?」
「もちろんもちろん」
その為に来たんだし、と名前は笑った。彼女がいつも身につけている“風紀”の腕章が、誇らしげに輝いているように見えた。


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