「パトカー?今年の新入生に警察のお偉い様のご子息なんていたっけ?」 「さぁ…?」 名前は報道陣が押し掛けている校門の方に興味津々の様だった。野次馬に混ざる気は無さそうだけれども、出来る事ならもっと近くで新入生を見たかったんだろう。 騒々しい…と呟けば、名前は口を尖らせた。 「名前は楽しみにしてたもんね、後輩」 「え、後輩って楽しみな存在じゃないの!?」 「残念ながら私はあんまり」 むしろ考えるだけで憂鬱な存在である、という発言は名前の手前飲み込んだ。それでも私の返答に対して名前は、少し拗ねたように唇を尖らせた。面白くて軽く突けば簡単に力が緩んだ。へにゃりした微笑みは、桜のピンク色によく映えて見えた。 「紫音も去年はインタビューされた?」 「覚えてない」 「ふふ…きっと猫みたいにしれっと躱してたんだろうなぁ」 そんな記憶はある。鬱陶しくて、ロクに相手もせずに足速に進んだ記憶。猫みたいに、かどうかは分からないけど。でも教室に着いた後、目が合った名前に『大変だったね!』って声をかけられたのは、何となく覚えてる。 「あ!あの総理大臣の息子氏、紫音と同室なんだっけ?」 「はぁ…思い出させないで」 名前の視線の先にドヤ顔でインタビューに対応する針宮藤次がいて、苛立ちで頭がクラっと来た。 本当、最悪。なんであんな男と同室になんかならなきゃいけないの。 「悪い子じゃなさそうだよ?」 「そういう問題じゃないの」 しまった。名前は何も悪くないのに、半ば八つ当たりで冷たく言ってしまった。名前は私の苛立ちに触れて少し驚いた様を見せて、大きな目をパチクリと瞬かせた後、うーんと空を仰いでいる。 何を考えてるんだろう。傷つけちゃったかな? 「…嫌になったら私の部屋においでね?」 どうやらいつもより沸点の低い私の心配をしてくれていただけだったみたい。瞳には心配の色が滲んでいる。良かった、傷ついてはいなさそう。 「ごめん、言い方キツかった」 「ん〜ん!何か故意とはいえ地雷踏んじゃったみたいで私こそごめんね」 名前のこういうところ、安心する。名前の笑顔が見れて、私も笑顔になれた気がする。 「気分転換に放課後甘いもの食べに行こうっ」 「駅前のパティスリーに行ってみたい」 「そこ、私も気になってた。」 名前は私の大事な親友。 まだ全てを打ち明けられていないけど、それはきっと名前も同じ。 「でも本当、何かあったら私の部屋でお泊りパーティしにおいでね」 私のことを男とか女とか、そういうちっぽけな事に拘らずに接してくれる名前の隣は心地よい。でもあんまりにも警戒されないのも、最近はちょっと悔しくなってくる。 「…楽しそうだけど、時雨にバレたら怒られるからやめとく」 「時雨は異性間不純交友に厳しいからねぇ」 「それだけじゃ無いと思うけどね」 本当、頭はいい癖に変なところで鈍いんだから。 ×
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