「あ、花房」
「すー……すー……」
悠馬を引き連れてベンチへと向かえば、お目当ての人物は名前の膝で気持ち良さそうに寝ていた。
「君って湊には優しいよね」
「顔が良すぎて抗えないんだよね」
「へぇ?湊みたいな顔がタイプだったんだ」
「いや…好みのタイプは叔父だし、この学園内なら時雨の顔が1番好きなんだけど…湊は好きとかそういう次元飛び越えて顔がいいからね?」
「あはは。よく分からないや」
疲れた顔をしているあたり、もう数十分はこの状態だったのだろう。膝枕だけならともかく、女子のギャラリーに囲まれてほぼ見世物扱いされている事に、名前は疲労困憊していた。僕が名前に膝枕なんてしてもらった暁には、凛先輩もしくは時雨にとても怖い目にあわされるんだろうな。そもそも名前は僕には膝を貸してはくれないだろうけどね。
そんなことより、湊を起こさないと。
「可愛らしいハニーの膝で昼寝とは、優雅な休日だね。湊」
「誰がハニーじゃい」
「でもいい夢は長くは続かないものだよ?」
足を掴んで引っ張れば、湊は名前の膝から落下した。
「むぎゃっ!」
間抜けな悲鳴を上げながら、ゆっくりと目を覚ましたようだ。
「お目覚めかな、王子」
「ん〜!あ、やなぎー。おはよ〜」
「おはよう。ちょっと用事があるんだ」
「いいよ〜…ってあれ?名前ちゃんのおひざは?」
湊の訴えも虚しく、名前は立ち上がって太ももをさすっていた。うん、痺れちゃったんだろうね。お疲れ様。
「時間切れです」
「え〜?せっかくの名前ちゃんの膝枕だったのに、やなぎのばかっ」
バカなんて言われてもね。むしろ時雨や、君を鬱陶に思っている紫音にに見つかる前に止めてあげた事を感謝して欲しいくらいだな。
「名前ちゃん、また膝枕してね」
「また今度ね」
「やくそく〜」
…本当、名前は湊に優しいというか甘いよね。いいけどさ。今は悠馬の話をしに来たんだし。
「悠馬、そんな離れてないで、こっち」
話を進めたくて、悠馬を手招けばキティ達が嘆き始めてしまった。ふぅ…どうしてこうもスムーズに事が進まないものかな。仕方ないね。
「ねえ、マイスイートシュガー。今は僕に静寂をくれないかな」
名前からのすごい視線を感じる。そっちを見なくても、いつも通り呆れた顔をしているんだろうと検討がついた。
「悠馬はこういう風になっちゃダメだよ…」
「仮になりたくても、なれません。」
はは、酷い言われようだな。確かに悠馬は天地がひっくり返っても僕みたいにはならないだろうけど。
「あの…名前先輩にも聞きたいんですけど」
「ん?どうしたの?」
「俺は…ブサイクですか?」
「はい!?」
悠馬、名前にもそれ聞くんだ。名前の好みが叔父さん…っていうのは顔を知らないから分かんないけど、時雨の顔が好きという事は、結構厳しい目だと思うのだけど。というか時雨の顔が好きだったんだ名前。心の方はどうなのかな?僕的にはそっちのが気になったりするんだけどね。
「はっきり言ってください」
「んー…ブサイクでは無いと思うけど垢抜けないなとは思う。でもそこがぶっちゃけ悠馬の可愛いところだと思ってるから、そんな切迫詰まらなくても大丈夫だと思うけど…誰かに何か言われた?」
一切の建前のない見解ありがとう。そして誰かと言いながら僕を睨まないで。僕はそういう意味では悠馬に何も言ってないよ。
「垢抜けない…」
「島暮らしだったし、金銭的に余裕も無かっただろうから仕方ないんじゃないかな?」
結局行き着くところはそこだよね。でも良かった。女の子の心から見ても、不細工には見えないみたいで。さっきキティ達から非難が殺到したばかりだから、ちょっと自信無くなっちゃってたんだよね。
「だからこれから悠馬をカッコよくしてもらうんだ」
「ほう?」
「湊。もう知ってる思うけど、彼は望月悠馬。僕のペアだ」
「おおー。ほうほう、君がやなぎの相棒くんか〜」
やっと本題に入れた。
湊にも事情を説明して、悠馬のヘアカットを頼む事になんとか成功した。
「…あの、素材の良さは活かして貰うんだよ?変にチャラついた髪型は悠馬には似合わないだろうからね?」
「?はい」
同意見。そこら辺は湊のヘアメイクを信用しているし。
「でも、身なり整えれば悠馬もかなりカッコよくなれると思う!」
「!先輩、俺、カッコよくなってきます……!」
「頑張れ頑張れ」
名前ナイス。
やっぱり男が集まってあれこれ言うより、可愛い女の子に応援してもらった方がやる気でるんだろうな。
なんだかんだ悠馬も男だね。


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